執筆:弁護士・税理士 谷原誠

今回は、重加算税で絶対に憶えておくべき6つの最高裁ルールについて解説します。

参考書籍として、私が執筆した『税務のわかる弁護士が教える 税務調査における重加算税の回避ポイント』で6つの最高裁判例を説明していますので参考にしていただければと思います。

【重加算税賦課要件(過少申告)】

重加算税賦課要件(過少申告)の条文は、国税通則法第68条1項です。

①過少申告加算税の規定に該当する場合において
②納税者が
③その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、
④隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた。

これらの場合に重加算税が付加されます。

【最高裁ルール1】

隠蔽又は仮装行為と過少申告行為との関係

「最高裁平成7年4月28日判決」
重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要する。

単なる過少申告だけでは重加算税にはならず、過少申告とは別に隠蔽仮装行為が必要だ、ということです。

税務調査で、単なる過少申告の場合に、「これは重加算税です」と言われることがあるかもしれませんが、それは間違いです。

「過少申告行為と別に、どこに隠蔽仮装行為があるのですか」という質問を、ぜひしていただきたいと思います。

【最高裁ルール2】

つまみ申告について

「最高裁平成6年11月22日判決」
(1)各確定申告の時点において、真実の所得金額を隠蔽しようという確定な意図をもっており、
(2)必要に応じ事後的にも隠蔽のための具体的工作を行うことも予定して、
(3)会計帳簿類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏し、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したというような事情が認められる場合には、重加算税の賦課要件を満たすことになる。

つまみ申告とは、積極的な行為はないけれども、所得のうちの一部だけをつまんで過少申告をした場合です。

申告時点で確定的な意図があって、後日隠蔽工作しようと予定していて、そして殊更過少に記載した申告書を提出した、という場合になります。

【最高裁ルール3】

納税者自身の積極的な行為がない場合

つまみ申告ではないけれども、積極的な行為がない場合です。

「最高裁平成7年4月28日判決」
納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされる。

積極的な行為がない場合、単なる過少申告では足りなくて、当初から意図があって、その意図を外部からうかがい得る特段の事情があることが必要だということです。

【最高裁ルール4】

税理士が隠蔽又は仮装行為をした場合

「最高裁平成17年1月17日判決」
納税者と税理士との間に事実を隠蔽し、又は仮装することについて意思の連絡があったと認められる場合には、賦課要件を満たすことになる。

【最高裁ルール5】

税理士が納税者に無断で隠蔽又は仮装行為をした場合

「最高裁平成18年4月20日判決」
以下の場合には、隠蔽仮装行為を納税者本人の行為と同視できるとして、重加算税の賦課要件を満たす。

重加算税の要件の一つに、「納税者が仮装隠蔽をした」という要件があるので、第三者がした場合には、本人の行為と同視できるかどうかという点がポイントになってきます。

以下の場合には、本人の行為と同視できるとされています。

(1)納税者において当該税理士が隠蔽仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し、又は容易に認識することができたこと。
(2)法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたこと。
(3)納税者においてこれを防止せずに隠蔽仮装行為が行われたこと。
(4)それらに基づいて過少申告がされたこと。

このような場合には、本人の行為と同視できるということです。

整理すると、本人の行為と同視できるのは、税理士が行うことを認識し、又は容易に認識することができた場合であって、法定申告期限までに是正ができた場合であったにもかかわらず、防止しなかった、というような場合になります。

【最高裁ルール6】

隠蔽、仮装と過少申告との因果関係

「最高裁昭和62年5月8日判決」
納税者が故意に課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽、仮装行為を原因として過少申告の結果が生じたものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではない。

ここでは、「故意に」という部分が重要です。
過去の最高裁などで、結構ずさんであり、重過失ではあるけれども故意ではないということで、重加算税が取り消されている事例がいくつもあるので、故意に隠蔽仮装したか、という部分もしっかり見ていただきたいと思います。

これら6つのルールを整理すると、次のようになります。

1.まず、【ルール1】を見ます。

過少申告行為そのものと別に隠蔽仮装と評価すべき故意があるのかを見ます。
故意がなければ、その時点で重加算税が課されません。
一方、別に仮装隠蔽行為があるとなった場合は【ルール6】にいきます。

2.【ルール6】で、隠蔽又は仮装は故意に基づくものかどうかを見ます。

「故意ではない、過失だ」となったら、重加算税は課されません。
一方、この隠蔽仮装が故意だとなったら、隠蔽又は仮装と過少申告との間に因果関係があるかどうか、を見ます。
「因果関係がない」となったら重加算税は課されません。
「因果関係がある」となったら、ではその隠蔽又は仮装をしたのは本人なのか第三者なのか、ということを見ます。

3.第三者である場合には、納税者本人の行為と同視できるのかを検討します。

ここでは、まず【ルール4】を見ます。
納税者と税理士との間に事実を隠蔽し又は仮装することについての意志の連絡があったと認めるか否か。

そして、次に【ルール5】です。
(1)納税者において当該税理士が隠蔽仮想行為を行うこと若しくは行ったことを認識し、又は容易に認識することができたこと。
(2)法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたこと。
(3)納税者においてこれを防止せずに隠蔽仮装行為が行われたこと。
(4)それらに基づいて過少申告がされたこと。

これらの要件を検討していくことになります。

4.次に、本人の行為だったという場合です。

積極的な行為があれば、もうそれで重加算税ということになるかもしれません。

しかし、積極的な行為がなかった場合は、【ルール2】と【ルール3】が適用されます。

【ルール2】
(1)各確定申告の時点において、真実の所得金額を隠蔽しようとする確定的な意図をもっており、
(2)必要に応じ事後的にも隠蔽のための具体的工作を行うことも予定して、
(3)会計帳簿類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏し、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したか。

これらを検討する、ということです。

次に、【ルール3】の納税者が積極的な行為がない場合を見ます。
納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたと認められるかどうかを検討する、ということになります。

この最高裁ルールについては、しっかり頭に入れておいていただき、税務調査の段階で重加算税指摘を受けたときは、これらのルールにあてはめて、重加算税の賦課要件を満たすかどうかを厳密に吟味していただきたいと思います。

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