今回は、「給与所得と事業所得の区別と判断基準」について解説します。

税理士の実務上、大変よく出てくるケースだと思いますが、長くなるので、数回に分けて説明をしていきます。

今回は、チャプター1ということになります。

【事業所得と給与所得の区別】

まず、条文から確認していきます。

「所得税法」
第27条(事業所得)
1.事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得または譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。

第28条(給与所得)
1.給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(中略)に係る所得をいう。

所得税法では、このような区別になっていますが、民法ではどうなっているでしょうか。

主に出てくるのは雇用契約、請負契約、委任契約ということになりますが、契約類型はこれに限られません。

法律で定められていない契約を「無名契約」といいますが、混合した契約形態もあるので、その契約類型、どのような契約なのかを見定めていくことも必要となってきます。

雇用契約、請負契約、委任契約について、民法では次のように定められています。

第623条(雇用)
雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

労働に従事、というところがポイントになります。

第632条(請負)
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

請負契約は仕事の完成と、その完成した結果に対して報酬を払う、というところがポイントになってきます。

典型的には建築請負契約です。

家を建築する契約を結んで、工事をして、完成させて引き渡す。

その完成引き渡しに対して、請負報酬を払うというのが請負契約になります。

「第643条(委任)
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

これは、法律行為を委託する、ということです。

税理士の顧問契約は委任契約である、と最高裁判決でいわれているので税理士の契約形態は、まず原則としては委任契約ですが、場合によって請負契約、あるいは請負契約と委任契約の混合契約ということもあります。

【所得税法上の給与所得の判断基準】

上記の条文を前提として、所得税法上の給与所得について、その判断基準を見ていきたいと思います。

大変有名な「弁護士顧問料事件」の判例を紹介します。

弁護士の顧問料は給与所得なのか、事業所得なのかが争われたものです。

「最高裁昭和56年4月24判決」
給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。

・指揮命令に服して提供した労務の対価である
・空間的、時間的な拘束を受けている
・継続的ないし断続的に労務又は役務の提供がある

これらに対して、その対価が支払われるということです。

従業員、パートアルバイトなどの場合には、これは給与所得になります。

取締役、監査役は雇用契約ではないのですが、この定義に当てはまるということで給与所得になります。

国会議員、裁判官は指揮命令下にはありませんが、これも給与所得ということになっています。

では、税法から離れて、次は労働基準法などに移っていきたいと思います。

労働基準法上の労働者、雇用契約とはどのようなものなのか見ていきます。

「労働基準法」
第9条(定義)
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事業所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

「会社法」
第330条(株式会社と役員等との関係)
株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規程に従う。

取締役や監査役と会社との契約は委任契約なのですが、それにも関らず、給与所得とされるということです。

したがって、法律上の契約形態と所得税法上の給与所得か事業所得かについてはリンクしない、イコールではない、ということになります。

例えば、労働基準法あるいは会社法では、従業員やパートアルバイトは雇用契約なのですが、取締役、監査役、国会議員、裁判官というのは雇用契約ではない、ということになってきます。

なお、裁判官の場合には特に、憲法で独立性というものが規定されています。

つまり、所得税法上の給与所得者と労働基準法上の適用はイコールではないということです。

そして、所得税法上の給与所得者のほうが、労働基準法適用の労働者よりも広い概念である、ということがいえるわけです。

では、契約類型で、一律に給与所得か事業所得か決まるのかというと、これは一律には決まらない、ということになります。

先ほどの弁護士顧問料事件の最高裁判決に戻ってみます。

「最高裁昭和56年4月24判決」
弁護士の顧問料についても、これを一般的、抽象的に事業所得又は給与所得のいずれかに分類すべきものではなく、その顧問業務の具体的態様に応じて、その法的性格を判断しなければならない。

【事業所得について】

では次に、事業所得について考えてみます。

事業所得とは、「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」となります。

ポイントを抽出すると、以下の4つになります。

①自己の計算と危険がある
②独立して営まれている
③営利性、有償性を有している
④反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務である

同じように、給与所得のエッセンスは先ほどの最高裁判決から3つ抽出できます。

①指揮命令に服して労務提供しているかどうか
②空間的・時間的な拘束を受けているかどうか
③継続的ないし断続的に労務又は役務の提供をしているかどうか

これらを総合的に見ていくことになります。

では、本件の弁護士顧問料についてはどう判断されたのでしょうか。

もちろん、事業所得として判断されているのですが、その理由を見ていきます。

(1)各顧問契約には勤務時間、勤務場所についての定めがない

これは、時間的・空間的拘束を否定していることになります。

(2)契約はその頃常時数社との間で締結されており、特定の会社の業務に常時専従する等格別の拘束を受けるものではない。

指揮命令、時間的拘束を否定している、ということです。

(3)契約の実施状況は、多くの場合電話により、時には右各社の担当者が法律事務所を訪れて随時法律問題等につき相談するため、弁護士が出向くことはない

これも、指揮命令、空間的拘束を否定しています。

(4)相談回数は会社によって異なり、月に2、3回というところや半年に1回、1年に1回というところもある

これは、継続的・断続的労務提供、時間的拘束の否定です。

(5)各社はいずれも本件顧問料を弁護士の業務に関する報酬にあたるものとして支払っており、各種保険料などを控除しておらず賞与等も支払っていないので、雇用契約と認識していない

これは、当事者の認識も給与所得ではなく、事業所得と認識しているということになります。

これらの理由から、本件では弁護士顧問契約は事業所得である、という結論になっています。

【その他の判例】

では次に、その他の判例について見ていきます。

「最高裁昭和53年8月29日判決(日フィル事件)」(TAINS Z102-4240)
団員たるバイオリン演奏家が楽団から受ける金員を事業所得として申告したところ、税務署長から給与所得であるとされた事案。

結論としては、給与所得とされ、控訴棄却、上告棄却となっています。

まず、地裁・高裁の理由です。

「東京地裁昭和43年4月25日判決」(TAINS Z052-1721)

(1) 楽団の定めたスケジュールに従う

ここは、指揮命令下であるというのと、時間的・場所的拘束にある、ということです。

(2)報酬は楽団の定めたとおりに労務を提供すること自体に対して支払われるもので、原則として勤務年数に応じて逐年増額され、生活給的要素を顕著に有する

ここは、継続的役務提供の対価として払われている、自己の計算と危険の否定をしている、独立性の否定をしている、ということです。

給与所得のほうによってくるということです。

次に控訴審判決です。

「控訴審東京高裁昭和47年9月14日判決」(TAINS Z066-2952)

(1)楽団に所属し、そのスケジュールに従ってその指揮拘束を受ける従属的立場において提供する役務の報酬として支払われた
時間的・、空間的拘束、継続的な役務提供の対価として払われている、給与のほうによっている、ということです。

(2)控訴人が右各楽団を主宰するものでないことはもちろん、そのスケジュールの企画、策定、実行にも直接参画するものでもない
ここは、独立性を否定しています。

これらの理由によって、これは給与所得である、と認定されているということになります。

総合的な事実認定ということになります。

「福岡地裁昭和62年7月21日判決」(TAINS Z159-5954)
電力会社の検針員への委託手数料が、給与所得か事業所得かについて争われた事案。

(判決)
事業所得が自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を備え、且つ客観的な反覆継続の意思と社会的地位が認められる業務から生ずる所得をいい、給与所得が雇用契約ないしそれに類する原因に基づき、使用者の指揮命令に服して提供対価として使用者から受ける給付をいう、との観点から判定すべき。

このような規範を立て、結論としては事業所得である、と認定されています。

理由については次のように述べています。

(1)委託検針契約は、契約書により個別に締結され、検針地区、定例検針日、受持枚数も多種多様で、対等当事者間の委任ないし請負契約として効力を有する
独立当事者間の契約であるという独立性、それから自己の計算と危険がある、ということです。
事業所得のほうによるということです。

(2)契約で定められた事項によってのみ九電に従属しており、労務の提供につき一般的な指揮命令下にあるわけではない
指揮命令の否定、時間的拘束の否定です。

(3)勤務時間の定めがなく、就業時間も異なり、就業時間による九電の服務規律の拘束がなく、懲戒等もない
指揮命令の否定、時間的拘束の否定となります。

(4)業務に必要な器具、資材のうち、主要な交通手段であるバイクの購入、維持費等が委託検針員の個人負担
自己の計算と危険によって独立している、ということになります。

(5)第三者に代行させることが禁止されてなく、現実に行われている
これは労務提供の否定と自己の計算と危険で業務を行っているということです。

(6)兼業が自由で実際兼業者が多い
時間的・空間的拘束の否定です。

(7)検針員が確定申告をしている
当事者の認識としても事業所得、ということになります。

「最高裁平成13年7月13日判決」(TAINS Z251-8946)
民法上の組合の組合員が組合の事業に従事したことにつき組合から金員の支払いを受けた場合、これが給与所得か事業所得かが争われた事案。

結論は、給与所得とされました。

(判決)
当該支払の原因となった法律関係についての組合及び組合の意思ないし認識(※当事者の認識)、当該労務の提供や支払いの具体的態様等を考察して客観的、実質的に判断すべきものであって、組合に対する金員の支払であるからといって当該支払が当然に利益の分配に該当することになるものではない。

「京都地裁平成20年10月21日判決」(TAINS Z258-11055)
A弁護士会所属の弁護士である原告が、弁護士会法律相談センターの行う無料法律相談業務に従事した対価として同弁護士会から支給された日当を給与所得として確定申告をしたのに対し、右京税務署長がこれを事業所得であるとして更正処分された事案。

これは結論、事業所得となって、控訴棄却、上告不受理となっています。

(判決)
本件日当は、A弁護士会の会員である原告が、同会の会員らの総意により、弁護士の使命を達成するための公益的活動の一環である無料法律相談活動を行うための規律として自治的に定められた本件規程の規定に従い、無料法律相談業務に従事した対価である。

ということで、ここは自治的にということで、指揮命令の否定となります。

自治体が住民に無料法律相談サービスを提供するには、相談の日時、場所、時間、相談内容の範囲等の大枠を設けることは不可欠であり、この枠組みに従って担当弁護士が執務すべきことは当然のことであるから、この枠組みが設定されていることが、無料法律相談所で弁護士の行う法律相談業務の事業性を損なうものとはいえない。

時間の枠組みを設定したからといって、時間的・空間的拘束や指揮命令が認められるわけではない、といっているのですが、これくらいの理由でも、事業所得であると認定した事案になります。

「東京地裁平成24年9月21日判決」(TAINS Z262-12043)
麻酔科医師である原告が、自己が麻酔手術等を施行した各病院から得た収入を事業所得として確定申告をしたところ、上記収入は給与所得に当たるとして、更正処分等を受けた事案。

結論は、給与所得とされて、確定しています。

なお、同じく麻酔科医の事案として、「国税不服審判所平成30年6月6日裁決同旨」(TAINS F0-1-941)というものがあるので、興味がある方は調べていただければと思います。

さて、判断基準は次のとおりです。

営利性や有償性を有し反復継続して行われる業務ないし労務提供という経済活動から得られる収入が事業所得に該当するか給与所得に該当するかは、自己の計算と危険によってその経済的活動が行われているかどうか、すなわち経済的活動の内容やその成果等によって変動し得る収益や費用が誰に帰属するか(※計算の危険)、あるいは費用が収益を上回る場合などのリスクを誰が負担するかという点、遂行する経済的活動が他者の指揮命令を受けて行うものであるか否かという点、経済的活動が何らかの空間的・時間的拘束を受けて行われるものであるか否かという点などを総合的に考慮して、個別具体的に判断すべきである。

では、本件ではどう判断されたでしょうか。

(1)定額の報酬が支払われ、時間超過の場合等には、割増報酬が支給され、手術や麻酔施術の難易度や薬剤価格などで変動しない
ここは、継続的役務提供の対価ということです。

(2)診療報酬の金額の多寡に応じて報酬が変動する報酬体系にはなっていない
収益の変動に連動していない、ということです。

(3)麻酔業務から生ずる費用は、基本的にA会が負担しており、麻酔業務による損益計算が赤字になる危険を負担することはない
ここは、リスク負担の否定です。

(4)麻酔を担当する前日に、A会からファクシミリ送信で患者数や各手術の内容等の情報の提供を受けてこれに従っていた
指揮命令下にあった、時間的・空間的拘束を受けていたということです。

(5)勤務時間は、A会との契約により定められていたこと、原告の業務は、A会の経営する病院内で術中麻酔管理等を行うことであった
時間的・空間的拘束を受けてきた、ということです。

(6)他の非常勤職員と同様に出勤簿で原告の勤務時間を管理していたことがそれぞれ認められていたこと
ここでは、当事者の認識、ということになります。

「東京地裁平成25年4月26日判決」(TAINS)
教育機関等の講座等の請負業務、受験生に対する訪問指導等を行う原告が、講師及び家庭教師に対して支払った金員が給与に該当しないとして源泉徴収をせず、また課税仕入れに該当するとして消費税の申告をしたところ、税務署長が給与等に該当するとして、源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び消費税等の各更正処分等を行った事案。

結論は、給与所得ということになっています。(控訴棄却、上告棄却・不受理)

では、本件ではどう判断されたでしょうか。

(1)本件金員は、講義等ないし個人指導の業務に従事した時間数に応じて支払われた
継続的役務提供の対価だった、ということです。

(2)内容の優劣、具体的な成果の程度、あるいは、各顧客から受領する金員と無関係の報酬額だった
自己の計算と危険の否定、ということになります。(決まった金額、時間数で決まったものを支払われたということ)

(3)契約に基づく義務を履行するための費用の負担を義務付けられていない
自己の計算と危険の否定です。

(4)基本的には、原告が本件各顧客との間の契約において定めた業務場所や業務時間数に従ってその労務を提供等をすべき義務を負う
時間的・空間的拘束を受けていた、ということになります。

「京都地裁平成27年8月21日判決」(TAINS Z265-12710)。
個人で経営コンサルタント業を営む原告が、B大学から受領した非常勤講師料及びC社から受領した報酬を事業所得として申告したところ、税務署長から、いずれも給与所得に該当するとして更正処分を受けた事案。

こちらも、給与所得と認定されています。(控訴棄却、上告不受理)

なお、他にも同じく、経営コンサルタント、大学の非常勤講師の事案があります。

「京都地裁平成26年10月16日判決」(TAINS Z264-12546)
「大阪地裁平成22年3月12日判決」(TAINS Z260-11395)

興味のある方は、こちらから引っ張って、見ていただければと思います。

さて、本件の判断は次のとおりです。

まず、B大学からの講師料について。

(1)講義の都度、出勤簿に押印したこと

これは、時間的・空間的拘束を受けていた、ということです。

(2)役務の提供や講師料の支払は、就業規則等に従って行われ、原告は、B大学が定めた期間にわたって継続的に一定の回数の講義を行う義務を負っていた

これは、指揮命令下、時間的、空間的拘束があった、ということです。

(3)B大学は、就業規則等の定めに従って、講師の資格に応じて定められている給与月額単価に基づいて非常勤講師の給与を算出して毎月これを支給していた

これは、当事者の認識です。

(4)委譲期間中は所定の休暇中であっても、非常勤講師の給与を減額することなく支給していた
これは、自己の計算と危険の否定をしています。

以上により、結論として、給与所得であると判断しています。

次に、C社の給与所得について。

(1)原告とCは、平成23年8月頃、原告の勤務日及び勤務時間、時給による給与、勤務場所、出勤簿による勤怠管理等に関する定めを含む雇用契約を締結した

時間的・空間的拘束を受けていた、ということです。

(2)Cは、原告に対し、原告が提供した労務ないし役務の対価である金銭を源泉所得税を控除した上で支払っている

継続的労務提供の対価、当事者の認識、ということです。

(3)原告は、出勤簿の始業時刻と終業時刻をそれぞれ記入するとともに、氏名欄に署名している

これは、時間的な拘束を受けていた、ということです。

(4)本件報酬は、出勤簿に記載された原告が労務ないし役務を提供した時間の合計時間に時給を乗じた結果と一致する

ここは、継続的役務提供の対価、自己の計算と危険を否定している、ということです。

以上から、結論として、こちらも給与所得であると認定をされています。

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