今回は少額減価償却資産の判断基準についてです。

これはなんなのかというと、ご存じの通り中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例。中小企業者が、取得価額が30万円未満で令和4年3月31日までの取得で事業に供したということになりますと、その取得価額を損金の額に算入することができるというものです。

今回はこの判定単位ですね、資産の判定単位について最高裁を見てみたいと思います。
最高裁平成20年9月16日判決、Xは電話事業を営む株式会社です。
XはA社からPHS事業の営業譲渡を受けて事業を開始した。
XはA社からエントランス回線利用権を1回線につき7万2800円で合計15万3178回線分譲り受け、事業の用に供した。
通話をするには、B社また違う会社ですね、B社のエントランス回線、PHS接続装置及び電話網等を通してはじめて通話が可能になるという状況でした。

ここでXは、エントランス回線利用権が少額減価償却資産であるとして、取得価額全額を損金に算入した。税務署長が否認して更正したという事案です。

そうすると判定単位がこのエントランス回線利用権のみなのか、あるいはこの全回線なのか、あるいはその他の判断になるのかということです。

判決です。エントランス回線利用権は、エントランス回線1回線に係る権利一つを1単位として取引されている。
まず取引単位を問題とします。減価償却資産は法人の事業に供され、その用途に応じた本来の機能を発揮することによって収益の獲得に寄与するものと解される。
B網依存型PHS事業者が本件権利のようなエントランス回線利用権をそのPHS事業の用に供する場合、当該事業におけるエントランス回線利用権の用途に応じた本来の機能は、特定のエントランス回線を用いて当該事業者の設置する特定の基地局とBの特定のPHS接続装置との間を相互接続することによって、当該基地局のエリア内でPHS端末を用いて行われる通話等に関し、Bをして当該事業者の顧客であるPHS利用者に対しBのネットワークによる電気通信役務を提供させることにある。

ちょっと難しいですけど、こういう役務提供の仕方だよということを認定しました。
そしてエントランス回線が1回線あれば、当該基地局のエリア内のPHS端末からBの固定電話又は携帯電話への通話等、固定電話又は携帯電話から当該エリア内のPHS端末への通話等が可能になるということなので、本件権利は、エントランス回線1回線に係る権利一つでもって、被上告人のPHS事業において、上記の機能を発揮することができ、収益の獲得に寄与するものということができる。

したがって、結論としてエントランス回線は全体ではなくて1回線に係る権利一つをもって、一つの減価償却資産とみるのが相当であるということなので、この最高裁の減価償却資産の判定単位の判断基準としては2つです。

① 1単位として取引されているかという取引単位になっているかどうか
②資産としての機能を発揮して、収益の獲得に寄与するかどうか

ということなので、この2つの基準で判断すればいいということになります。
他の事例でも見てみましょう。さいたま地裁平成16年2月4日判決、原告は衣料品販売のチェーンストアを経営する株式会社です。

原告が営業店舗に設置した防犯用のビデオカメラ等を少額減価償却資産として取得価額を損金に算入した。この防犯用ビデオカメラというのは、カメラ、コントローラー、ビデオ、テレビ、接続ケーブルで構成されているので、税務署長としては、これらは全て全部で一体の資産なんだと。

だから、少額減価償却でないとして否認、更正したという。この裁判例読む時にちょっと注意しないといけないことがあります。

それはこのさいたま地裁の事案、今ならどう判断されるかということで、さいたま地裁の判例は平成16年です。先程の最高裁平成20年です。

今なら最高裁の基準によって判断されることになりますということです。

では、さいたま地裁はどう判断したか。制度の趣旨からすれば、少額減価償却資産に該当するかどうかは、テレビやビデオなどの普通の家庭用商品については、特段の事情がない限り、1品ごとの通常の取引価額により判定すれば足りるというべきである。

本件防犯用ビデオカメラ等は全体として監視目的のため一体的に用いられているといっても、本件防犯用ビデオカメラ等を常に一体として一つの償却資産と扱うことは必ずしも合理的とはいえず、カメラ、ビデオ、テレビは一つ一つを器具備品として取り扱っても差し支えないと。

しかしながら、監視カメラ、コントローラー、ケーブルについては、前記のように原告は平成9年から既存店舗及び新規店舗全部について監視カメラを設置し始め、1店舗ごとにカメラ4、5台、コントローラー1台をセットとして購入、設置されたと認められる。

これらの設置の経緯や本件監視カメラの使用状況等からみて監視カメラ等についてはその取得価額は設置された各店舗単位で判定するんだということなので、先程の最高裁とちょっと判定の仕方が違うということになります。

したがって、今この事案を判断するのであれば、さいたま地裁のこの基準ではなくて、最高裁の基準で当てはめるということになります。そうすると1単位として取引されているか、資産としての機能を発揮して、収益の獲得に寄与するかということで、(A)カメラ、ビデオ、テレビ、これは1単位として取引されますし、この1つ1つで独立して資産としての機能を発揮して収益の獲得に寄与されるだろうと。

ところが、(B)監視カメラ、コントローラー、ケーブルというのは、これは1単位として個別に取引されるんじゃなくて、この3つが1単位として取引されるのが通常と。

そして資産としての機能、監視カメラとしての機能を発揮するにはこの3つが必要となってくると。この3つがあって収益の獲得に寄与するということなので、これはBグループについては3つが全体として1単位という1つの資産ということで判断されるのではないかと考えられます。

このように裁判例を見る時にはその後最高裁判決で基準が確立されていないかどうかを見ないと判断を間違ってしまう可能性があるので注意していただきたいと思います。

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