朝型勤務を導入・実施する企業や個人が増えているようです。
仕事の効率アップにより長時間労働を改善し、仕事以外の時間と生活の充実を実現できるなど、多くのメリットがあるといわれています。
一見、いいことずくめのように思える朝型勤務ですが、じつは労使双方にとって思わぬ落とし穴が潜んでいるかもしれません。
問題の核心をチェック
2015年、厚生労働大臣は「夏の生活スタイル変革」との要望書を経団連に提出し、経済界が朝型勤務の導入を図るよう要請した。
そこで、7月1日から国家公務員22万人を対象に夏の朝型勤務「ゆう活」がスタート。
8月末までの実施で、勤務時間を1~2時間前倒しすることで、「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」の実現を目指す取り組みが行われた。
「ゆう活」の取り組みには賛否両論あるようだが、今年(2016年)も7月1日から実施され、終業時間を午後4時~午後5時15分までに前倒しすること、午後8時までに庁舎の消灯を励行することなどが発表された。
政府は、民間企業などにも導入を働きかける方針で、政府の掲げる「働き方改革」につなげたいとしている。
民間企業では、大手商社の伊藤忠商事が2014年5月から朝型勤務を導入している。
伊藤忠商事は、2016年3月期の純利益が2403億円となり、三菱商事を抜いて業界で初の首位になったが、朝型勤務による好影響が一因ではないかともいわれている。
同社が公表しているデータでは、朝型勤務導入前に比べ、早朝勤務を含む残業時間は10%減、支給する残業代は7%減、朝食支給などを含むトータルの残業代は4%減で、東京本社の電気代も6%の節約になっているようだ。
しかし、法的に見た場合、朝型勤務には労働トラブルの火種がないわけではない。
未払い残業代の問題である。
リーガルアイ
朝型勤務が、法定労働時間内で行われるのであれば問題はありません。
しかし、たとえば、朝9時~18時までの所定労働時間(休憩1時間含む)の会社において、朝7時に出勤させて働かせたとしたら、どうでしょうか?
まずは、「労働基準法」について詳しく見ていきます。
【労働基準法とは?】
労働基準法は、会社が守らなければいけない最低限の労働条件を定めた法律で、会社に比べて立場の弱い労働者の保護を図る目的があります。
「法定労働時間」
法定労働時間とは、会社が、従業員を働かせることができる労働時間のことです。
原則として、1週間で40時間、かつ1日8時間までとなっています。
(労働基準法第32条)
「割増賃金」
割増賃金とは、会社が従業員に法定労働時間外の勤務をさせたときに支払わなければいけないものです。(同法第37条)
「時間外労働(残業)」、「休日労働」、「深夜労働」などによって発生します。
時間外労働をさせて割増賃金(残業代)を支払わなかった場合、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます。
「法定休日」
会社は従業員に対して、原則として1週間に少なくとも1日は休日=法定休日を与えなければなりません。
仮に、法定休日に従業員を働かせた場合、会社は「休日労働」として割増賃金を支払わなければいけません。
また、会社が午後10時から午前5時までの間に従業員を働かせた場合は、「深夜労働」として割増賃金を支払わなければいけません。
「36協定」
労働者に時間外休日労働をさせるためには、会社は、過半数組合または過半数代表者との書面による労使協定を締結し、かつ行政官庁にこれを届けることが必要です。
これを「36協定(さぶろくきょうてい)」といいます。(同法第36条)
36協定の届け出をしないで時間外労働をさせた場合、労働基準法違反として、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処される可能性があります。
【残業代の割増率と計算方法とは?】
会社が従業員に支払わなければならない割増賃金(残業代)の割増率と計算方法は、次のように規定されています。
・1ヵ月の合計が60時間までの時間外労働、及び、深夜労働については2割5分以上の率(125%)
・1ヵ月の合計が60時間を超えて行われた場合の時間外労働については5割以上の率(150%)
・休日労働については3割5分以上の率(135%)
・深夜労働については、それぞれ2割5分以上の率
・「残業代」=「基礎賃金」×「割増率」×「残業時間数」
※基礎賃金は通常の労働時間又は労働日の賃金
【朝型勤務の場合も残業代は発生する?】
次に、朝型勤務にも残業代が発生するのかどうか、労働基準法に照らし合わせて考えてみます。