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売主の瑕疵担保責任に関する見直し【民法改正のポイント】

現行民法のルール

「売主の瑕疵担保責任」とは、売買の目的物に「隠れた瑕疵」があった場合に売主が負う責任のことをいいます。
「瑕疵」とは、本来備わっているはずの品質や性能が欠けていることです。

売主に責任が生じるのは、単に瑕疵があっただけではなく、「隠れた瑕疵」があった場合です。
瑕疵が「隠れた瑕疵」といえるかどうかは、契約の際に瑕疵があることが考慮されているかどうかによって判断します。

たとえば、「瑕疵があるからその分だけ代金を安くする」という契約内容の場合には、瑕疵があることを前提としているため、隠れた瑕疵ではありません。

売主の瑕疵担保責任は、すべての売買契約に適用されるわけではなく、売買の目的物が不動産などの「特定物」の場合にのみ適用されます。

特定物の売買における売主の契約上の義務は「その物を引き渡すこと」であり、その物が壊れていても引き渡しさえすれば契約上の義務を果たしたことになります。

しかし、それでは買主にとってあまりにも不利益であるため、現行民法が瑕疵担保責任というルールをつくり、売主に特別の責任を負わせました。

契約からは生じない義務を法律で定めたことから、この考え方を法定責任説といいます。

売主に責任を負わせたということからわかるように、買主にはそれに対応する権利があります。
買主は、隠れた瑕疵に気づいてから1年以内であれば、売主に対して損害賠償請求ができるようになっています。

さらに、瑕疵があることによって売買契約の目的を達成できない場合、つまり売買契約をした意味がないといえる場合には、契約の解除ができます。

変更点

(1)「隠れた瑕疵」を「契約の内容に適合しない」に変更

「瑕疵」は日常的に使われている言葉ではないため、一般の人にはわかりにくいです。
また、「隠れた瑕疵」という表現から、表面からは見えない瑕疵という視覚的な意味に捉えがちです。

しかし、実際には瑕疵が表面から見えるかどうかではなく、契約内容によって判断するということでした。
売買契約は日常的に行われる取引であるにもかかわらず、「隠れた瑕疵」の一般的なイメージと法律的な意味が異なることが問題視されていました。

そこで、改正民法では、「隠れた瑕疵」を「契約の内容に適合しない」という表現に置き換えました。

先ほどの例で考えてみましょう。
瑕疵があることを前提とした売買契約は、瑕疵があることも契約内容の一部になっています。

そのため、瑕疵があることは「契約の内容に適合しない」とはいえません。
実際の意味に合うように表現を置き換えたことによって、結論を導きやすくなったことがおわかりいただけると思います。

改正民法は、法定責任説ではなく契約責任説を採用しました。

契約責任説とは、特定物の売買においても売主には本来の品質や性能を備えた物を引き渡す義務があり、それらが欠けている物を引き渡しても契約上の義務を果たしたことにはならないという考え方です。

法定責任説を採用した現行民法は、買主保護のために契約からは生じない義務を特別に売主に負わせていましたが、契約責任説を採用した改正民法の下では、契約から当然生じる義務と考えます。

(2)買主の権利に追完請求権と代金減額請求権を追加

現行民法は、売主が瑕疵担保責任を負う場合に買主が持つ権利として、損害賠償請求権と解除権のみを定めていました。
代わりになる物の引渡し請求や代金の減額請求ができるかについては規定がなかったのです。

今回の改正により、追完請求と代金減額請求ができることが明らかになりました。

追完請求には、代わりになる物の引渡し請求、目的物が壊れていた場合の修補請求、数量が足りなかった場合の不足分の引渡し請求が含まれます。

ただし、契約の内容に適合しないことが買主のせいであるときは、買主は追完請求も代金減額請求もできません。
また、買主が請求する追完方法以外の追完方法を売主が提供した場合の取扱いについても定められました。

たとえば、目的物が壊れていた場合に買主が代わりになる物の引渡しを請求したところ、売主が修理しようとしたらどうなるかということです。

改正民法は、売主の提供する追完方法が買主の請求する追完方法と異なっていても、買主にあまりにも大きな負担を与えるとはいえない場合は追完として認められるとしています。

(3)買主の権利の期間制限に関する規定を変更

現行民法は、買主が隠れた瑕疵に気づいてから1年以内に権利行使(損害賠償請求または解除)をしなければならないと定めていました。

損害賠償請求をするためには、隠れた瑕疵があること、それによって損害が発生したこと、損害額がいくらになるかということを証明できなければなりません。

1年という期間は短すぎるため、買主に不利であると批判されていました。

改正民法は、買主が「契約の内容に適合しない」事実に気づいてから1年以内に、売主に通知しなければならないこととしました。

つまり、1年以内に権利行使(追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、解除)までする必要はなく、通知をすればよいということです。

通知には何が契約の内容に適合しないのかを記載するだけで足りるため、1年以内に権利行使をしなければならなかった改正前と比べて、買主の負担が非常に軽くなりました。

短すぎると批判されていた1年という期間は変更されていませんが、権利行使から通知に変わったことで、買主に有利になったということができます。

契約書への影響

(1)これまでの売買契約書で「隠れた瑕疵がある」と表現していた部分は、「契約の内容に適合しない」に書き換える必要があります。

契約の内容に適合するかどうかによって買主に権利が発生するかが決まるため、改正により契約の内容を明確にしておく必要性が高まりました。

目的物の品質や性能について契約書に詳細に記載するか、それらを記載した仕様書などを契約書の別紙として用意するようにしましょう。

変更例
新設①(目的物の品質及び性能)
「引渡し時において、本件目的物の品質及び性能が次のとおりであることを保証する。」
※この後に品質及び性能を箇条書きにする。

新設②(目的物の品質及び性能)
「引渡し時において、本件目的物の品質及び性能が別紙仕様書のとおりであることを保証する。」
※仕様書を添付する。

(2)買主の追完請求権と代金減額請求権が認められることとなったため、それらに関する規定を置くことが考えられます。
売主の提供する追完方法が買主の請求する追完方法と異なる場合については、ただし書きとして記載するとよいでしょう。

変更例
新設①(追完請求権)
「1 引渡し時において、本件目的物が第○条に定める品質及び性能を有しない場合、その他本契約の内容に適合しない場合は、買主は売主に対して代替物の引渡し請求、修補請求または不足分の引渡し請求をすることができる。ただし、買主にとって不相当な負担とならない限り、売主は買主が請求した方法以外の方法による追完をすることができる。
2 契約の内容に適合しないことが買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は前項に規定する請求をすることができない。」

新設②(代金減額請求権)
「引渡し時において、本件目的物が第○条に定める品質及び性能を有しない場合、その他本契約の内容に適合しない場合は、買主は売主に対して代金減額請求をすることができる。ただし、契約の内容に適合しないことが買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、この限りでない。」

(3)「隠れた瑕疵に気づいてから1年以内に権利行使」が「契約に適合しない事実に気づいてから1年以内に通知」に変わったため、その部分を変更する必要があります。

変更例
変更前(瑕疵担保責任の追及期間)
「1 買主は、本件目的物に隠れた瑕疵があることを知った時から1年以内に限り、売主に対する損害賠償請求をすることができる。
2 隠れた瑕疵があることにより契約の目的を達成することができない場合は、前項に定める期間に限り、買主は本契約の解除をすることができる。」

変更後(買主による通知)
「買主は、本件目的物が契約の内容に適合しないことを知った時から1年以内に売主に対してその旨を通知しなければ、契約の内容に適合しない事実を理由とする追完請求、代金減額請求、損害賠償請求及び本契約の解除をすることができない。」

いつから適用になるか

売主の瑕疵担保責任に関する改正民法は、2020年4月1日から適用されます。

この日を施行日といいますが、施行日と売買契約をした日のどちらが先であるかによって、現行民法と改正民法のどちらが適用されるかが決まります。

施行日前に売買契約をした場合には現行民法が適用され、施行日以後に売買契約をした場合には改正民法が適用されます。

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