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賃貸借に関する見直し【民法改正のポイント】

現行民法のルール

お金を払って物を借りることを賃貸借といいます。

貸す人から見れば、お金をもらって物を貸すことです。
借りる人を賃借人、貸す人を賃貸人といいます。

建物の賃貸借契約を結ぶときには、賃借人から賃貸人に敷金を預けるのが通常です。
預けるという表現からわかるように、そのお金が完全に賃貸人のものになるわけではありません。

賃貸借契約が終了し、建物を出て行った後に賃借人に返還されます。
返還されるのは敷金の全額ではなく、賃料の未払い分や建物内の設備の修理費用などを差し引いた額です。

賃貸借契約終了後、賃借人が賃貸人に対して借りていた物を返すときには、借りたときと同じ状態に戻す義務があります。

もとの状態(原状)に戻す(回復)義務ということで、原状回復義務と呼ばれています。

変更点

(1)敷金の定義や返還時期などを明文化

現行民法には敷金に関する規定がなく、敷金の定義や返還時期は契約で定めたり、判例によって確立されました。
今回の改正では、判例で確立されたことを明文化しただけであり、今までの考え方や取扱いに変更はありません。

改正民法は、賃借人から賃貸人に対する金銭支払義務を担保する目的で交付するお金であれば、名称にかかわらず敷金にあたるという内容の定義規定を設けました。

金銭支払義務とは、賃料を支払う義務の他、賃借人が建物内の設備を壊した場合の修理費用を支払う義務など、賃貸借契約にもとづいて生じるお金を支払う義務が含まれます。

敷金をいつ返還するかについては、賃貸人と賃借人との間でトラブルになりやすい問題です。

改正民法は、判例で確立された取扱いを明文化しました。
つまり、賃貸借契約が終了して、賃借人が賃貸人に対して建物を明け渡した後に敷金を返還することとしました。

また、賃借人が金銭支払義務を果たさないときは、賃貸人が敷金から差し引くことはできますが、賃借人が賃貸人に対して敷金から差し引くことを請求することはできないという内容の規定が置かれました。

(2)賃貸借契約終了時における原状回復の範囲を明確化

賃貸借契約が終了したときは賃借人に原状回復義務が発生しますが、建物などは時間が経つにつれて自然に劣化していくため、借りたときと同じ状態に戻すことはできません。

しかし、現行民法は賃借人がどの程度の原状回復義務を負うのかについて、明確にしていませんでした。

改正民法は、借りた物を普通に使っていても生じる「通常損耗」と時間が経つことによって生じる「経年変化」については、原状回復の範囲に含まれないこととしました。

誰が使っても当然に生じる傷や汚れであれば、賃借人ではなく賃貸人が修復費用やクリーニング代を負担するということです。
それらの費用は賃貸人が自分で使っていたとしても発生するため、賃貸人が負担するとしても不利益ではありません。

この規定は任意規定であるため、異なる内容を契約で定めれば民法よりも契約が優先しますが、法律上有効となるかどうかは別問題です。

契約によって通常損耗や経年変化についても賃借人が原状回復義務を負うことを定めることはできますが、一方的に賃借人に不利な内容の契約にあたり無効となる可能性があります。

(3)賃借物の一部滅失の場合に賃料が当然に減額されることを規定

賃貸借契約期間中に、借りている建物の一部が燃えてしまった場合などは、その一部が使用できなくなります。
現行民法では、賃借人の不注意によらずに一部滅失したときは賃借人が賃料の減額を請求できることとしています。

賃料の減額には請求が必要であり、当然に減額されるわけではありませんが、実務では当然に減額されるという考え方がとられていました。これを明文化したのが改正民法です。

改正民法は、借りた物が一部滅失するなど、その他の事由によって一部が使用できなくなったときは、賃料が当然に減額されると定めました。

現行民法では一部滅失の場合にかぎって減額請求ができましたが、改正民法ではその他の事由による場合でも一部の使用ができなくなれば当然に減額されます。

ただし、その他の事由にはすべての事由が含まれるのか、それとも限定されるのかについては規定がありません。

現行民法では、減額を請求できるのは賃借人の不注意によらない場合でしたが、この考え方は改正民法でも同じです。
つまり、一部が使用できなくなった原因が賃借人にある場合には賃料が減額されません。

現行民法では一部滅失により賃貸借契約の目的を達成できなくなった場合には、賃借人が契約を解除できることになっていました。

改正後は、一部滅失にかぎらず、一部が使用できなくなったことにより賃貸借契約の目的を達成できなくなった場合に解除できるため、賃借人に有利になりました。

契約書への影響

(1)改正民法では、金銭支払義務を担保する目的であればどんな名称であっても敷金とみなされます。
そのため、賃貸借契約が終了したときに返還しない礼金などは、返還する義務がないことを契約で明示する必要があります。

変更例
変更前(礼金)
「賃借人は、本契約締結日に礼金として金○円を賃貸人に支払う。」

変更後(礼金)
「賃借人は、本契約締結日に礼金として金○円を賃貸人に支払う。賃貸人は、当該礼金を賃借人に返還する義務を負わない。」
賃借人が金銭支払義務を果たさないときに賃貸人が敷金から差し引くことができるという定めを追加します。賃借人が敷金から差し引くことを請求できるような表現になっている場合は、その部分を変更する必要があります。

変更例
変更前(敷金)
「賃借人は、本件不動産を明け渡すまで、敷金をもって賃料その他の債務と相殺することができない。」

変更後(敷金)
「賃貸人は、賃借人が本契約から生じる金銭給付債務を履行しない場合には、敷金を当該債務の弁済に充てることができる。賃借人は、本件不動産を明け渡すまで、敷金を当該債務の弁済に充てるよう請求することができない。」

(2)通常損耗と経年変化は賃借人による原状回復の範囲に含まれないことになったため、賃借人に負担させる場合はその旨の規定を置く必要があります。

その場合、原状回復の範囲を具体的に定め、賃借人が十分認識した上で合意しなければなりません。
なお、一方的に賃借人に不利な場合は無効になることについては先に述べたとおりです。

変更例
変更前(原状回復義務)
「賃貸借契約が終了したときは、賃借人は賃借物に生じた損耗及び損傷を原状に復する義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によらない場合は、この限りでない。」

変更後(原状回復義務)
「1 賃貸借契約が終了したときは、賃借人は賃借物に生じた損耗及び損傷を原状に復する義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によらない場合は、この限りでない。
2 壁穴補修の工事費用は、通常損耗によるものであっても原状回復義務の範囲に含まれるものとする。」

(3)現行民法では借りた物が「一部滅失した」場合に「賃料の減額を請求できる」としているのに対し、改正民法では一部滅失などにより「使用できなくなった」場合に「賃料が減額する」としているため、その部分の変更が必要です。

使用できなくなった場合は、その割合に応じていくら減額するのか、どのくらいの期間減額するのかなどを賃貸人と賃借人で話し合って決めることが望ましいため、その旨の規定も追加しておきましょう。

変更例
変更前(一部滅失による賃料の減額請求又は解除)
「1.本件不動産の一部が滅失した場合には、賃借人は滅失した部分の割合に応じて賃料の減額を請求することができる。ただし、賃借人の過失によるものであるときは、この限りでない。
2.本件不動産の一部が滅失した場合に、残存する部分のみでは賃貸借契約の目的を達成できないときは、賃借人は本契約を解除することができる。」

変更後(一部滅失等による賃料の減額又は解除)
「1.本件不動産の一部が滅失その他の事由によって使用できなくなった場合には、賃料は使用できなくなった部分の割合に応じて減額される。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によるものであるときは、この限りでない。
2.前項の場合において、使用できなくなった部分の割合、減額の程度、減額する期間その他必要な事項に関する決定は、賃貸人及び賃借人の協議にもとづき行うものとする。
3.本件不動産の一部が滅失その他の事由によって使用できなくなった場合に、残存する部分のみでは賃貸借契約の目的を達成できないときは、賃借人は本契約を解除することができる。」

いつから適用になるか

賃貸借に関する改正民法は、施行日である2020年4月1日以後に締結される賃貸借契約に適用されます。

施行日前に締結された賃貸借契約には、現行民法が適用されます。
施行日前に締結した賃貸借契約を施行日以後に更新した場合にどちらが適用されるのかが問題となります。

ここでは紹介しなかった賃貸借契約の存続期間の変更についてのみ、更新が施行日以後であれば改正民法が適用されるという例外的な規定があります。

そのため、ここで紹介した改正については、更新が施行日以後であっても賃貸借契約締結が施行日前であれば現行民法が適用されると考えられます。

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