目次
現行民法のルール
「法定利率」とは、法律に定められている利率のことです。
民法では年5%と定められています。
会社が行う取引などによって生じた債務には、商法で定められている年6%の法定利率(商事法定利率)が適用されます。
たとえば、交通事故の被害に遭った場合には、不法行為に基づく損害賠償請求権が発生します。
仮に、1000万円を請求できるとすると、その1000万円に、事故の日から年5%の遅延損害金が発生していく、ということになります。
変更点
(1)法定利率を引き下げ、変動制を採用
現行民法で定められている年5%という法定利率は、現代の金融市場で適用される市中金利に比べて非常に高くなっています。
約120年前に民法が制定されたときの市中金利にもとづいて決められたものだからです。
その後の経済変動によって市中金利が低下し、法定利率と市中金利が大きくかけ離れたため、利息を支払わなければならない債務者に不利であると批判されてきました。
また、先に説明したとおり商行為によって生じた債務はそれ以外の債務と区別して商事法定利率を適用することになっていますが、このように区別する合理的な理由がないという指摘がありました。
改正民法では、施行時の法定利率を年3%に引き下げました。
さらに、市中金利に合わせて法定利率を変動させるしくみをつくりました。
市中金利に比べて法定利率が高いからといって法定利率を下げるだけでは、市中金利に合わせて定期的に民法を改正しなければならないことになってしまいます。
そのため、改正民法では施行時の法定利率のみを具体的に定め、その後の法定利率は定めずに変動制を採用することによって、民法を改正せずに市中金利に応じて法定利率を変動させることができるようにしました。
ただし、法定利率を毎年変動させるとコストがかかるため、3年ごとに法定利率を見直すことになっています。
具体的な計算方法は民法ではなく法務省令で定められています。
3年ごとに見直すといっても、3年ごとに法定利率が必ず変わるわけではありません。
3年後に見直した結果、年3%のままになることも考えられます。
ちなみに、1%未満の端数が出たときは切り捨てるため、年2%の法定利率になることは考えられますが、年2.1%などの法定利率になることはありません。
改正民法では、利息が発生した最初の時点の法定利率が適用されることを規定しています。
6年にわたって利息が発生する場合に、4年目に法定利率が年3%から年2%に変動したとします。
その場合にそれぞれの利息が発生した時点を基準に法定利率を適用すると、1年目から3年目までは年3%、4年目から6年目までは年2%となります。
さらに長くなるとより複雑になります。
そこで、ひとつの債務については利息が発生した最初の時点の法定利率を最後まで適用するとして、利息の計算が複雑にならないようにしました。
また、商事法定利率に関する商法の規定は削除され、商行為によって生じた債務も改正民法の法定利率の適用を受けることとなりました。
改正後も当事者間で定めた約定利率が法定利率に優先することは変わりません。
これまでどおり利率を定めることができる他、改正によって新たに追加された変動制を採用するかについても契約書に定めることができます。
約定利率がない場合の遅延損害金についても法定利率が適用されます。
どの時点の法定利率が適用されるのかが問題となりますが、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率とされています。
(2)中間利息控除の割合を定める際に法定利率を基準とすることを明文化
交通事故によって被害者が後遺障害を負い、働くことに支障が生じると見込まれる場合は、将来得られる収入が減ることが想定されます。
その場合は、ケガの治療費などに加えて、収入の減額分も損害賠償として請求することができます。
収入の減額分は、交通事故に遭わなければ生涯にわたって収入として少しずつ得られたはずのお金です。
加害者から被害者に対して損害賠償をすることによって、被害者は収入の減額分を早い段階で取得することになります。
将来発生する「減額された収入しか得られない」という損害を補うためのお金を、損害が発生するときまで待たずに取得できるということです。
そのため、お金を受け取ったときから実際に損害が発生するときまでに利息が発生します。
これでは被害者に有利になってしまうため、利息が生じることを考慮して損害賠償の額を計算することにしたのが中間利息控除という制度です。
現行民法では、中間利息控除について定めがありませんでした。
裁判所の判例では、中間利息控除の割合は法定利率を基準とするとしていました。
改正民法では、中間利息控除に関する規定を置きました。
中間利息控除の割合を定めるときは法定利率を基準とするという内容であり、判例を明文化したものであるといえます。
改正民法の規定は「利息相当額を控除するときは」となっています。
これは、収入の減額分を算定するときに中間利息控除をしない場合もあることを意味しており、中間利息控除は必ずしなければならないわけではないことがわかります。
改正で法定利率が変わったことによって、中間利息控除にも影響が及びます。
改正によって法定利率が下がるため、その分だけ中間利息控除の額も低くなり、加害者が支払う損害賠償の額が増えることになります。
判例では、中間利息控除の割合を年5%とするのは市中金利と比べて高すぎると指摘していましたが、変動制が採用されたことにより今後は市中金利から大きく離れることはないため、問題とはならなくなりました。
契約書への影響
(1)お金の貸し借りをする場合の金銭消費貸借契約書では、利率を定めることが一般的です。
約定利率は法定利率に優先するため、法定利率は適用されないこととなり、その場合は改正による契約書への影響はありません。
契約書に遅延損害金の利率を定めない場合は、改正前よりも下がった法定利率が適用されることになります。
支払いが遅れたときに支払う遅延損害金の利率が下がることで、契約の拘束力が改正前よりも弱まるおそれがあります。
そのため、遅延損害金の利率を契約書で定めておく必要性が高まりました。
変更例
新設(遅延損害金)
「債務者が債権者に対する債務の履行を怠ったときは、支払期日の翌日から完済まで年14.6%の割合による遅延損害金を支払う。」
(2)中間利息控除は、交通事故などを原因とする不法行為によって後遺障害が残る場合に問題となるものです。
後遺障害に対する損害賠償債務は契約から生じる債務ではないため、契約書への影響はありません。
いつから適用になるか
2020年4月1日が改正民法の施行日です。
施行日前に発生した利息については現行民法が適用されるため、約定利率がなく法定利率による場合は年5%となります。
施行日以後に発生した利息については改正民法が適用されます。
注意しなければならないのは、ある債務について利息の一部が施行日前に発生し、施行日以後にも利息が発生した場合です。
その場合は、利息が発生した最初の時点の法定利率が適用されるため、施行日前に一部でも利息が発生している以上、施行日を過ぎてから発生する利息についても現行民法が適用されます。