原始的不能の場合の損害賠償規定の新設【民法改正のポイント】


現行民法のルール

「原始的不能」とは、契約が成立する前から履行が不可能であったことをいいます。

契約が成立した後に履行が不可能になったことを意味する後発的不能と区別するために、「原始的」という言葉が使われています。

現行民法には、原始的不能の場合の契約の効力について規定がありません。

一般的には、原始的不能の場合には契約は無効であると考えられています。

実現可能性があることは、契約が有効となるための要件になっているからです。

債務者が契約から生じる債務を履行しないことを債務不履行といいます。

債務不履行のひとつである履行不能は、契約が成立した時点では履行可能であったが、契約成立後に履行できなくなった場合を指します。

原始的不能は履行不能にはあたらないため、原始的不能の場合に債権者が債務者に対して債務不履行による損害賠償を請求することはできません。

このままでは、履行が不可能になった時点が契約の1日前であれば契約は無効であるため損害賠償請求ができず、契約の1日後であれば契約は有効であるため損害賠償請求ができるということになりますが、それでは問題があります。

原始的不能の場合でも損害賠償請求をするために考え出されたのが、契約締結上の過失を損害賠償請求の根拠とする方法です。

契約締結上の過失とは、契約を結ぶまでの段階で、契約当事者の一方が相手方の信頼を裏切ることなどによって相手方に損害を与えた場合に、損害賠償をする義務が生じるという考え方です。

過去の裁判例では、マンションの売却予定者が買受希望者の希望によって設計変更・施行をしたのに、買受希望者が資金繰りを理由に、突然買取りを取りやめた事例において、損害賠償を認めた最高裁判決などがあります。

契約締結前であっても契約当事者間にある程度の信頼関係は築かれているのが通常であることから、その信頼を裏切ってはいけないという信義誠実の原則がこの考え方のもとになっています。

なお、信義誠実の原則は民法の基本原則のひとつです。

変更点

(1)原始的不能でも債務不履行による損害賠償を請求できることを規定

現行民法には、原始的不能の場合に債務不履行による損害賠償を請求できるかについて規定がありませんでした。

先に述べたように、履行不能は契約成立後に履行できなくなったことを前提にしているため、原始的不能の場合には債務不履行による損害賠償を請求できないと考えられています。

しかし、履行不能になったのが契約の成立前か成立後かという違いだけで、債務不履行による損害賠償の可否に差を設けるべきではないと批判されていました。

そもそも、履行不能になったのが契約の成立前と成立後のどちらであるのかがわからないこともあります。

改正民法では、原始的不能の場合にも債務不履行による損害賠償を請求できるという内容の規定を置きました。

条文では、原始的不能であることは債務不履行による損害賠償請求を妨げないという表現になっています。

原始的不能であっても契約は当然に無効とはならないことが明確に規定されたわけではありませんが、その考え方を前提としています。

原始的不能の場合には契約は当然に無効であるという、これまでの考え方を改める規定になっています。

改正前でも契約締結上の過失による損害賠償請求ができたのであれば、改正によって特に変わることはないように思えます。

しかし、契約締結上の過失による損害賠償請求から債務不履行による損害賠償請求に変わることによって、損害賠償の範囲に影響があります。

損害賠償請求という同じ言葉を使っていても、損害賠償の範囲は信頼利益の場合と履行利益の場合があります。

契約締結上の過失にもとづいて請求できる損害賠償の範囲は信頼利益、債務不履行にもとづいて請求できる損害賠償の範囲は履行利益です。

信頼利益とは、契約が有効であると信じたことにより生じた損害のことです。

契約を結ぶためにかかった交通費などの実費がこれにあたります。

それに対して履行利益とは、契約が成立して履行されていれば得ることができたはずの利益のことです。

建物の売買で考えると、買主が建物を売ったり賃貸したりしていれば得ることができたはずの利益がこれにあたります。

このように、信頼利益よりも履行利益の方が損害賠償の範囲が広いため、改正によって債権者が損害賠償請求できる範囲が広がりました。

(2)債務不履行による損害賠償の範囲に関する規定の表現を変更

現行民法では、債務不履行があった場合に債権者が債務者に対して請求できる損害賠償の範囲として、通常損害と特別損害があることを定めています。

(1)では損害賠償の範囲として信頼利益と履行利益があることを説明しましたが、ここで説明するのは債務不履行による損害賠償であるため、履行利益を請求することができます。

それを前提とした上で、この損害については損害賠償を請求できるかというように具体的に考えていくのが、通常損害と特別損害の問題です。

通常損害とは、債務不履行があった場合に通常生じるといえる損害のことで、これについては問題なく損害賠償の範囲に含まれます。

それに対して特別損害とは、特別の事情によって生じた損害のことです。

特別損害については、当事者がその事情を予見していたか、予見することができたときに損害賠償の範囲に含まれます。

改正によって変更があったのは、特別損害が損害賠償の範囲に含まれるかどうかを判断するときの基準です。

当事者が特別の事情を予見していたか、予見することができたときという基準から、予見すべきであったときという基準に変わりました。

なお、通常損害に関する規定に変更はありません。

基準が変わったといっても、考え方が大きく変わったわけではありません。

特別の事情を実際に予見していた、または予見可能であったということよりも、予見すべきであったのかが重要であるという考え方にもとづいて、表現が変更されました。

現行民法において、特別損害が損害賠償の範囲に含まれるかどうかの基準となる「当事者」とは、債務者のことであると一般的に考えられています。

しかし、改正民法の条文でもそのまま「当事者」となっており、債務者であることが明文化されませんでした。

そのため、改正後も解釈に従って判断されることになります。

契約書への影響

(1)原始的不能に関する規定を契約書に記載することはないため、契約書への影響はありません。

(2)特別損害が損害賠償の範囲に含まれるかどうかの判断基準の表現の変更によって、特に契約書に影響を及ぼすことはありません。

業務委託契約書には、損害賠償の範囲を通常損害に限定するという内容の規定を入れることがあります。

具体的には、「受託者の債務不履行があったときは、委託者は直接かつ現実に受けた通常の損害の範囲内において損害賠償を請求できる。」というような規定です。こ

れにより受託者が損害賠償をする範囲が狭くなるため、受託者に有利です。

通常損害については改正による変更がないため、この規定を変更する必要はありません。

いつから適用になるか

改正民法の施行日は、2020年4月1日です。

施行日から改正民法が適用されることになりますが、施行日よりも前に生じた債務が原始的不能であった場合には現行民法が適用されます。

改正民法が適用されるのは、施行日以後に生じた債務が原始的不能であった場合です。

契約を結んだのが施行日より前であっても、債務が生じたのが施行日以後である場合には改正民法が適用されます。

契約を結んだ日ではなく、債務が生じた日を基準に考えることに注意が必要です。

 

 

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