契約の成立に関する見直し【民法改正のポイント】


現行民法のルール

契約は法律行為のひとつであり、申込みの意思表示と承諾の意思表示がそろったときに成立します。

契約をする際に当事者同士が遠い場所にいて郵便などでやりとりをする場合には、申込みの意思表示と承諾の意思表示がそろうまでに時間がかかります。

現行民法は、契約をする際に生じる問題に対処するために、契約の成立についてさまざまなルールを規定しています。

まず、承諾の期間を定めてした契約の申込みは撤回することができないと定めています。

承諾できるのはいつまでと決まっている場合、その期間内に申込みを撤回できるとすると承諾をする側である相手方に不利益が生じるおそれがあるからです。

現行民法には、承諾の期間内に承諾の意思表示が申込者に到達しなかった場合は、申込みは効力を失って契約は成立しないというルールも定められています。

この規定によって、承諾の意思表示がないまま承諾の期間が過ぎれば契約は成立しないため、申込者が他の契約相手を探すことができるようになります。

承諾の意思表示が遅れて到達した場合でも契約は成立しないのが原則ですが、遅れた原因が郵便事情によるもので、通常であれば期間内に到達するはずであった場合には契約が成立する可能性があります。

通常であれば期間内に到達するはずであったことを申込者が知ることができる場合には、承諾者に対して延着の通知(承諾の期間経過後に到着したという内容の通知)をしなければならず、その通知をしなかったときは承諾の意思表示が期間内に到達したものとみなすとされているのです。

承諾の意思表示が遅れて到達し、原則どおり契約が成立しなかった場合でも、申込者がその相手との契約を望んでいる場合もあります。

そのような場合に、再度申込みの意思表示をして、それに対する承諾の意思表示を待たなければならないとすると、申込者も承諾者も契約する意思があるにもかかわらず契約成立までに時間がかかってしまいます。

そこで、現行民法では遅れて到達した承諾の意思表示を申込者が新たな申込みとみなすことができると定めています。

これに対して申込者が承諾の意思表示をし、相手方に到達すれば契約が成立します。もともとの申込者が承諾者に、承諾者が申込者になるということです。

変更点

(1)申込みを撤回する権利を留保できる旨の規定を新設

現行民法の下では、承諾の期間を定めて申込みをした場合には、申込みを撤回することが一切できませんでした。

承諾の期間内は申込みを撤回できないと定められており、承諾の意思表示が到達しないまま承諾の期間が経過すれば申込みは効力を失うため、撤回する余地がないからです。

改正民法は、承諾の期間を定めてした申込みは撤回することができないことを原則としながらも、例外的に申込者が申込みを撤回する権利を留保した場合には撤回できることにしました。

留保の方式は特に定められていないため、書面ではなく口頭による留保も認められます。

申込みの意思表示をする際に、申込みを撤回する可能性があることを相手方に伝えておくことによって撤回する権利を留保することができます。

なお、承諾の期間内に承諾の意思表示が申込者に到達しなかった場合には、申込みは効力を失って契約が成立しないことは現行民法から変わっていません。

(2)承諾の期間を定めない申込みに関する規定を追加

現行民法では、申込者が承諾の期間を定めなかった場合については、承諾の通知を受けるのに相当な期間が経過するまでは撤回できないことをルールとして規定していました。

承諾の期間を定めた場合には撤回する余地がありませんが、期間の定めがない場合には相当な期間が経過した後は撤回できるということです。

この規定は契約の相手方が遠くにいることを前提としており、契約の相手方を「隔地者」と表現しています。

厳密にいうと、「隔地者」とは意思表示が到達するのに時間がかかる人のことを意味するため、契約の当事者が遠い場所にいる場合でも電話やメールでやりとりをする場合は隔地者ではないということになります。

隔地者でない場合、つまり契約の相手方に意思表示が到達するのに時間がかからない場合のルールは定められていません。

しかし、通信手段が発達した現代では、隔地者間の取引であっても迅速に通知が到達するようになったため、隔地者でない場合のルールについても民法に規定する必要が出てきました。

改正民法では、現行民法の「隔地者に対してした申込み」を単なる「申込み」に変更することで、隔地者でない場合にもこの規定を適用することにしました。

また、承諾の期間を定めない申込みについての規定を追加しています。

承諾の通知を受けるのに相当な期間が経過するまでは撤回できないとしながらも、申込者が撤回する権利を留保したときは撤回できると定めました。

先に説明した承諾の期間を定めた場合の規定と同じ取扱いになっています。

さらに、隔地者の逆で意思表示が到達するのに時間がかからない人のことを「対話者」と表現し、対話者に対する申込みの場合は対話が継続している間はいつでも撤回できるとしています。

申込みの承諾の通知を受けるのに相当な期間が経過していなくても、また撤回する権利の留保がなくても、対話が継続しているかぎり撤回できるということです。

対話者に対しては意思表示がすぐに到達するため、対話の継続中に申込みの撤回を認めても相手方に不利益が生じるおそれは少ないと考えられたのです。

これは、承諾の期間を定めない申込み独自の規定です。

改正民法は、申込者が対話の終了後も申込みが効力を失わないことを表示していない場合、対話が継続している間に承諾をしなければ、申込みは効力を失って契約は成立しないことを定めました。

この規定は多少の表現の変更はありますが、もともと商人間にのみ適用されるルールとして商法に置かれていたものです。

しかし、商人間にかぎらず、対話継続中に承諾がなければ申込みの効力が失われると考えるのが通常であるため、商法から民法に規定が移りました。

(3)契約の承諾の意思表示について発信主義から到達主義に変更

意思表示の効力が発生するのは、通知が相手方に到達したときです。

相手方が意思表示の内容を把握していなくても到達したことになります。

たとえば、意思表示の内容が書かれた手紙が相手方の郵便受けに入った場合や、相手方の家族が手紙を受け取った場合も到達したものとされ、そのときに意思表示の効力が発生します。

手紙を相手方が実際に読んで内容を確認する前に効力が発生するということです。

到達したときに意思表示の効力が発生することから、到達主義と呼ばれています。

現行民法では、到達主義が原則でしたが、例外的に契約の承諾の場面では発信主義が採用されていました。

契約の申込みを受けた人が承諾するという内容の手紙をポストに入れたときから、承諾の意思表示の効力が発生するというものです。

契約から生じる債務を履行する準備をすぐに始められるようにするためというのがその理由でした。

改正民法では、契約の承諾の場面においても、発信主義ではなく到達主義をとることとしました。

これにより、承諾の期間を定めた申込みがあった場合において、期間内に承諾の意思表示が申込者に到達しなければ契約は成立しないことが確定します。

そのため、承諾の意思表示が遅れて到達した場合の延着の通知に関する規定は意味を失ったため、削除されました。

契約書への影響

(1)(2)(3)契約の成立に関する規定は、契約書を作成する前段階の問題であるため、契約書への影響はありません。

いつから適用になるか

改正民法は2020年4月1日に施行されます。

施行日前に契約の申込みがあった場合、その契約には現行民法の規定が適用されます。

施行日以後に契約の申込みがあった場合には改正民法が適用されます。

契約成立日ではなく、申込日を基準とすることに注意が必要です。

 

 

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