今回は、税務調査において、立証責任が課税庁にあるものと納税者にあるものの区別、について解説します。

立証責任とは、事実があるかどうか認定できない、どちらなのかわからない、という場合に、いずれか一方の当事者が負う不利益または負担、ということになります。

どちらが立証責任を負うかについては、最高裁判決があります。

「最高裁昭和38年3月3日判決(月報9巻5号668頁)」
所得の存在及びその金額について決定庁が立証責任を負うことはいうまでもないところである。

課税要件事実の立証責任は課税庁側にあるということです。

これはどういうことかというと、課税要件を基礎づける事実を立証しきれないときには、課税要件を満たさないとして課税ができない、という結論になるということです。

過去の事例でも、やはり立証責任で納税者を勝訴させた事例がたくさんあります。

「アルゼ事件(東京高裁平成15年1月29日判決)」

これは、米国関係会社を経由した迂回取引かどうかが争われた事件です。
判決では、「提出された証拠によっては、国の主張する事実を認めることはできず、他にこれを認めることができる的確な証拠はない」として納税者勝訴判決をしています。

これは立証責任により納税者を勝訴させた判決ということになります。

証拠関係によって事実認定をしていくので、「この証拠では立証されたとは言えない」ということで判決がなされたわけです。

原則として、課税庁側に立証責任がある、ということなのですが、納税者側に立証責任があるということが認められた判決もいくつかあるので、取り上げておきます。

立証責任の分配は原則としてまず課税庁側にあるのですが、例外として納税者側に立証責任があるとされた判決例です。

例えば、「利息」、「訴訟費用」、「雑損控除」、「地元分配金」、「貸倒損失」などについては、「納税者側で立証してください。

しかも立証することはそんなに難しくないでしょう」ということで納税者に割り振られています。

原則的な課税要件については、課税庁側が立証を作るということになりますが、一般経費ではない特別な経費などについては、納税者側に割り振られることを想定しておかなければならないということになります。

ところで、原則として課税庁側に立証責任があるということになると、納税者は一切、立証活動をしなくていいのかというと、そんなことはありません。

「広島高裁岡山支部昭和42年4月26日判決(行集18巻4号614頁)」

必要経費について、控訴人(納税者)が行政庁の認定額を超える多額(の経費)を主張しながら、具体的にその内容を指摘せず、したがって、行政庁としてその存否・数額等についての検証の手段を有しないときは、経験則に徴し相当と認められる範囲でこれを補充しえない限り、これを架空のもの(不存在、つまり経費が不存在ということ)として取り扱うべきものと考える。

課税庁側が一定の立証をした場合には、それに反する反証を納税者側がしないと、納税者側の主張は認めない、ということになっています。

「岡山地裁昭和44年7月10日判決(判例時報590号29頁)

被告(課税庁)が右の調査に基づく一応の立証を尽くした以上、被告の認定しえた額を超える多額を主張する原告が具体的にその支払額、相手方等を明らかにしえない限り、本件各土地の売買により発生した譲渡所得が原告に帰属するものと認められてもやむを得ないと言うべきである。

これは、広島高裁の判決と同じような考え方です。

課税庁側が一応の立証をしたのであれば、納税者側もそれが違うのであれば違うという何らかの証拠を出してください、それがもし出せないのであれば、それは課税庁側の立証をある程度認めないといけません、というようなことです。

ここも、経費の多額を主張しているのであれば、その証拠を出して下さい、という話になってきます。

では、どの程度に事実を立証すればいいか、というのは「事実の証明度」といいます。

事実の証明度については、有名な「ルンバール事件判決」というものがあります。

「最高裁昭和50年10月24日判決(民集29巻9号1417頁)」

この事件で最高裁は、
①立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではない。
(※完璧を期す必要はないということ)

②経験則に照らして全証拠を総合検討する。

③因果関係については高度の蓋然性を証明する必要がある。

④通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる。
(※通常人が見て、これはもう、この事実はある、というくらいのものであるというのが証明度ということになってくる)

まず、課税要件の立証責任がどちらにあるのか。(原則として課税庁側にあります)

その場合に、果たして課税庁側が事実の証明に成功しているのか、税務調査等で経費等を否認されたとき、課税庁側は経費否認したものを立証するだけの資料を収集したといえるのかどうなのか。

それは、通常人が疑いを差し挟まない程度に実証し得たといえることが必要になる。

ということになるので、この辺りを頭に入れて、税務調査において課税庁と交渉していただければと思います。

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