会計業務委託契約書/会計業務再委託契約書/再委託に関する合意書など
解説:弁護士・税理士 谷原誠
今回は、ホステスに対する支払いが「給与」となるのか「外注費」となるのか、その所得区分の判断基準について、実際の裁決例をもとに解説していきます。
裁決の概要:ホステスへの
支払いが争点に
取り上げるのは、国税不服審判所 平成26年7月1日裁決です。
この事案は、スナックを経営する請求人が、ホステスに対して支払った金銭を「外注費」として経理処理していたところ、税務調査によって「給与」と認定された、というものです。
こうしたケースは、飲食業界では比較的よく見られる典型例と言えるでしょう。
所得区分の基本的な考え方
裁決ではまず、以下のように給与所得の定義が確認されています。
給与所得とは、雇用契約またはこれに類する関係に基づき、使用者の指揮命令に従って提供された労務の対価として、使用者から受ける給付である。
特に重視されるポイントとして、
- 支給者の指揮命令下にあるかどうか
- 空間的・時間的拘束があるか
- 労務または役務の継続的・断続的提供があるか
などが挙げられます。
この点については、昭和56年4月24日の最高裁判決が引用されています。
したがって、支払いが「給与」に該当するか否かは、労務の内容や支払いの方法などをもとに、客観的かつ実質的に見て、上記の基準に当てはまるかどうかを判断する必要があります。
給与認定されたホステス
この裁決では、あるホステスに対する支払いが「給与」と認定されました。
具体的には次のような状況でした
- 出勤表やタイムカードにより、出勤日や勤務時間が管理されていた
- 同伴・遅刻・欠勤なども請求人が把握していた
- 請求人の指揮命令に従い、時間・場所の拘束を受けていた
- 報酬は日給または時間給を基本とし、月払いで支給されていた
- 接客実績に関係なく、顧客の飲食代や同伴実績などによって金額が決定された
以上の点から、実態として「被用者的な働き方」であったと判断され、給与所得に該当するとされました。
外注費と認定されたホステス
一方で、別のホステスに対する支払いについては「外注費」と認定されています。
- 請求人の指揮命令に従っていたとは言えず、独立性があった
- 命令を拒否することもできる状況にあった
- 報酬は時間給ではなく、顧客売上の50%にホステスチャージや同伴料を加えた体系
- 接客に伴う費用を自身で負担していたと見られる
このように、実態として独立した事業者的側面が強く、外注費として認められたのです。
所得区分は「業種」ではなく
「実態」で判断される
よくある誤解として、
- クラブのホステスは外注費
- キャバクラのホステスは給与
- スナックは給与扱い
というように、業種で区分されると考える人もいますが、それは正確ではありません。
重要なのは、「実態として給与的か、事業者的か」という点です。
たとえクラブであっても、キャバクラのように時間給で働き、指揮命令に従っている場合には、給与として認定されることもあるのです。
事業所得と給与所得の基本的な
判断基準
事業所得の要件
以下の要素が事業所得であることを示します
- 自己の計算と危険により事業を営んでいる
- 独立して事業を行っている
- 営利性・有償性がある
- 反復継続的に業務を行う意思と社会的地位がある
給与所得の要件
一方、給与所得とは
- 使用者の指揮命令下で労務提供している
- 空間的・時間的拘束を受けている
- 継続的または断続的に労務または役務を提供している
これらも、先述の最高裁判決に基づいた基準です。
支配従属性の判断要素
「給与か外注か」の判断において中心となるのは、支配従属性(使用従属性)の有無です。
具体的には以下のポイントが見られます
- 仕事の依頼を拒否できるかどうか
- 業務遂行上の指揮監督があるかどうか
- 時間・場所の拘束があるかどうか
- 他の人に代替可能かどうか
- 報酬の算定・支払い方法の特徴
また、経費負担(道具・衣装・交通費など)や、専属性(他の店で働けるか)も補足的な判断要素になります。
さらに、当事者間の認識も考慮される場合があります。
誤った判断が招くリスクと
税理士の責任
ホステスへの支払いを「外注費」として処理した結果、税務調査で「給与」として認定されると、以下のようなリスクが発生します
- 消費税の課税対象外から課税対象へ
- 源泉所得税の徴収漏れ
- 加算税・延滞税・重加算税の対象
このようなリスクを防ぐためには、税理士として以下の対応が重要です
- 判断が難しいケースではあることを事前に説明する
- 外注費として認められる要件を丁寧に説明する
- 条件を満たさない可能性があること、否認リスクを明確に伝える
- 将来的な税務調査での不利益(税負担や追徴課税)を説明する
- 説明内容を文書化して証拠として残す
これらの対応を怠ると、税理士が説明義務違反による損害賠償責任を問われる可能性があります。
税理士の倫理と懲戒リスク
最後に重要な点ですが、税理士が「外注費として処理するのは無理」と判断したにもかかわらず、依頼人の要請で外注費として計上した場合、それは不真正な税務書類の作成にあたり、懲戒処分の対象となるおそれがあります。
税理士としての専門的な判断と倫理を守ることが、結果的に依頼人と自身の双方を守ることにつながるのです。
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