今回は、申告書の記載内容に関する錯誤を認めた裁判例を2つご紹介します。

錯誤を認めた裁判例は珍しいので、どんな事例で認められるのか、確認しておきましょう。

申告書の記載内容に関する錯誤については、最高裁昭和39年10月22日判決があります。

所得税確定申告書の記載内容についての錯誤の主張は、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、所得税法の定めた過誤是正以外の方法による是正を許さないとすれば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ許されない。

裁判例1

事案

京都地裁昭和45年4月1日判決(TAINSZ059-2551)

この事例は、合併会社が被合併会社の株主に対する利益の配当として被合併会社の株主に交付する金銭が清算所得に含まれないとの見解の下に、合併会社も被合併会社も申告納税した。

その後、右金銭は法人の清算所得に含まれるとの国税局職員の指導により、合併会社が錯誤に
おちいり、右金銭を清算所得として記載した法人税確定申告書を提出した事例です。

判決

確定申告書の記載内容の錯誤が客観的に明白かつ重大であって、法定の方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に該当すると解するのが相当である、としました。

裁判例2

事案

東京地裁平成21年2月27日判決(TAINS Z259-11151)

この事例は、被相続人の妻が取得する本件同族会社の株式の価額につき、配当還元方式による評価を前提として第一次遺産分割をし、相続税の申告をした後に、配当還元方式の適用を受けられず、類似業種比準方式による高額の租税負担となることが確認されたため、配当還元方式の適用を受けられるように各相続人が取得する株式数を調整した上で新たな遺産分割の合意に基づき、更正の請求期間内に原告らが更正の請求又は修正申告をした事案です。

判決

分割内容自体の錯誤と異なり、課税負担の錯誤に関しては、それが要素の錯誤に該当する場合であっても、申告納税制度の趣旨・構造及び税法上の信義則に照らすと、申告者は、法定申告期限後は、課税庁に対し、原則として、課税負担またはその前提事項の錯誤を理由として当該遺産分割が無効であることを主張することはできない。

例外的にその主張が許されるのは、分割内容自体の錯誤との権衡等にも照らし、

(1)申告者が、更正請求期間内に、かつ、課税庁の調査時の指摘、修正申告の勧奨、更正処分等を受ける前に、自ら誤信に気付いて、更正の請求をし、

(2)更正請求期間内に、新たな遺産分割の合意による分割内容の変更をして、当初の遺産分割の経済的成果を完全に消失させており、かつ、

(3)その分割内容の変更がやむを得ない事情により誤信の内容を是正する一回的なものであると認められる場合のように、更正請求期間内にされた更正の請求においてその主張を認めても弊害が生ずるおそれがなく、申告納税制度の趣旨・構造及び租税法上の信義則に反するとはいえないと認めるべき特段の事情がある場合に限られるものと解するのが相当である、として、錯誤無効を認めた。

おわりに

税理士に対する損害賠償請求があった時には、納税者の損害をなくせば損害賠償請求権もなくなります。

・更正の請求を検討する

・消費税の事業年度を変更する

・錯誤を検討する

などで、少しでも納税者の損害を少なくする努力をするようにしましょう。

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