契約書のひな形、内容証明郵便書式、労務書式、
会社法議事録・通知書のテンプレートが無料

赤字企業でも繰延税金資産を計上できる?認識時期と再評価のポイント

繰延税金資産は、将来の税負担を軽減するために重要な会計項目です。

企業の財務状況にかかわらず、将来の課税所得の見込みが合理的に立証できる場合には、計上が認められる可能性があります。

本記事では、繰延税金資産の認識時期や再評価の判断基準について、実務上の留意点を交えて解説します。

繰延税金資産とは

繰延税金資産とは、税効果会計において、会計上で資産として認識される項目です。

会計上の費用と税務上の損金に認識のズレ(いわゆる「一時差異」)が生じた場合に発生し、将来の法人税等の支払額を減少させる効果を持ちます。

赤字や一時的な損失がある場合でも、将来的な黒字化が合理的に見込まれるのであれば、繰延税金資産の計上が認められることがあります。

一方で、将来の課税所得が合理的に見込めない場合には、税効果の回収可能性が認められないため、繰延税金資産としては認識できません。

そのため、繰延税金資産の会計処理を行う際は、将来の課税所得との相殺可能性に基づく「回収可能性」の慎重な判断が極めて重要となります。

繰延税金資産と税効果会計との関係性

税効果会計とは、会計上の利益と税務上の課税所得に差異が生じた場合に、その税金への影響を財務諸表に適切に反映させる会計手法です。

会計上の収益・費用と税務上の益金・損金は多くの点で一致しますが、会計上は費用であっても、税務上は損金に算入できない項目(損金不算入)など、一部に差異が存在します。

こうした差異のうち、将来の課税所得を減額する効果のある「将来減算一時差異」や、税務上の「繰越欠損金」については、繰延税金資産の計上対象となります。

繰延税金資産を認識するには、これらの差異が将来的に解消される見込み、すなわち将来の課税所得の見通しが不可欠です。

その判断には、企業の収益予測や事業計画に基づいた合理的かつ客観的な根拠が求められます。

赤字企業が繰延税金資産を認識するための実務要件

繰延税金資産は、将来の課税所得により税負担を軽減できる見込みがある場合に限り、資産として認識されます。

赤字企業であっても、将来の利益計上が合理的に見込まれる場合には、繰延税金資産の認識が可能です。

ただし、その回収可能性を客観的かつ合理的に説明できることが前提となります。

繰延税金資産の回収可能性の判断基準

企業会計基準では、繰延税金資産の回収可能性を以下の3つの観点から判断することが求められています。

これらの判断は単なる希望的観測ではなく、具体的かつ信頼性のある数値計画や外部環境の分析に基づいて行う必要があります。

特に赤字企業の場合には、自社が将来的に黒字化できる見込みがあるかどうかを、客観的資料に基づいて検証することが不可欠です。

  • 収益力に基づく課税所得の見込み
    過去の業績、将来の収益予測、事業計画等に基づき、加減算前課税所得が生じる可能性を評価
  • タックス・プランニング
    含み益のある資産の売却など、税務戦略により課税所得を創出する可能性を検討
  • 将来加算一時差異との相殺
    将来加算一時差異が、減算一時差異や繰越欠損金と相殺できるかを判断

計上の可否を左右する要素と実務対応

繰延税金資産の計上可否は、以下のような複数の要素を総合的に勘案して判断されます。

  • 将来の黒字化達成の可能性と時期
  • 税務上の繰越欠損金の繰越期間
  • 将来減算一時差異の解消見込み
  • 業界動向や経済環境の変化

実務では、これらの要素を踏まえた根拠資料(中期経営計画、収益改善策、資産売却計画など)の整備が不可欠です。

また、計上判断は経営層による重要な意思決定であり、経理・財務部門だけでなく、事業部門とも連携した社内体制の構築が求められます。

繰延税金資産の認識は一度きりではなく、継続的な再評価と見直しが必要であり、制度的な対応力が企業に問われます。

繰延税金資産の算定方法

繰延税金資産は、将来減算一時差異や繰越欠損金の額に税率を乗じて算定します。

<繰延税金資産の算定式>

将来減算一時差異 × 法定実効税率 = 繰延税金資産

法定実効税率とは、法人税、住民税、事業税など、企業が負担する税金を合算した総合的な税率です。

なお、算定にあたっては、将来の税制改正による税率変更の可能性なども考慮する必要があります。

繰延税金資産の認識時期と再評価の基準

繰延税金資産は、一度計上したら終わりではなく、毎期末に回収可能性を再評価する必要があります。

一時差異や繰越欠損金が発生した時点で、将来の課税所得が合理的に見込まれると判断されれば、資産として認識できます。

ただし、翌期以降も業績の変動や事業計画の修正などに応じて、計上済みの繰延税金資産が将来本当に回収可能かどうかを見直さなければなりません。

たとえば、業績悪化などにより将来の課税所得の見込みが下方修正された場合には、繰延税金資産を取り崩す(減額する)対応が求められます。

また、繰延税金資産の回収可能性を見直した場合に生じた差額は、原則として見直しを行った年度における法人税等調整額に計上します。

まとめ

繰延税金資産は、企業の将来の税負担を軽減するうえで重要な会計項目です。

その計上には、将来の収益力に関する合理的な予測が不可欠です。

特に赤字企業においては、回収可能性の判断が厳しく問われるため、客観的なデータに基づいた慎重な検討が求められます。

将来の課税所得の見込みを事業計画などで具体的に示し、認識・再評価・引当の各段階で適切な会計処理を行うことが、会社の財務の信頼性を高め、将来の成長や資金調達にも良い影響を与えます。

PREV

関連記事

土地の地目変更による相続税評価額への影響

土地の相続税評価額を計算する場合、評価対象地の地目によって評価方法が異なります。 評価方法を間違えると、相続税評価額を適切に算出できませんし、土地...

代表者のコンプライアンス違反による不正会計事例を解説

代表者である社長が自らコンプライアンス違反をして、不正会計に関与した事例があれば教えてください。 【この記事の著者】 江黒...

会社の健康診断の費用は誰が負担するべきか?

転職した会社で「入社時健康診断」を受診しました。 費用は自己負担だと言われたので疑問に思いながらも支払ったのですが、過去に在籍していた...