契約書のひな形、内容証明郵便書式、労務書式、
会社法議事録・通知書のテンプレートが無料

違法な探偵業者を取り締まる法整備を考える

動画解説はこちら

現状の規制が被害防止に役立っていないことや多発するトラブルなど、探偵業のあり方が問題になっているようです。

ここ数年の探偵や興信所が絡んだ事件やトラブルとして、以下のような事件が発生しています。

東京都渋谷区の女性(当時21歳)の誘拐事件で、容疑者らが事前調査として、対象女性の住所割り出しなど素行調査を探偵に依頼していたことが発覚。(2006年7月)

警視庁立川署の巡査長が女性を射殺し自殺した事件で、巡査長が女性の素行調査を興信所に依頼していたことが発覚。(2007年8月)

探偵業者などが弁護士や行政書士に依頼して、戸籍謄抄本を取得していた事案が相次いで発覚。使用目的を明示するよう謄抄本の取得方法が厳格化。(2008年5月)

「別れさせ屋」をしていた探偵業の男が、離婚工作をした女性(当時32歳)と交際した末、殺害する事件が発生。(2009年4月)

司法書士やハローワーク、携帯電話販売店などから個人情報を入手していた探偵業者などを愛知県警が摘発。(2011〜12年)

神奈川県伊勢原市で、女性がDV被害を受けていた元夫に刃物で刺され重傷を負った事件で、元夫が探偵業者に依頼して女性の実家を割り出していたことが判明。(2013年5月)

加古川市職員が探偵業者に住民情報を漏らし現金を受け取っていたことが判明。県公安委員会は同市の探偵業を45日間の営業停止とした。(2014年1月)

警視庁の平成23年の資料「探偵業の業務の適正化に関する法律の附則に基づく検討結果について」によると、平成21年度の探偵業の届け出件数は4,953件、法令違反による検挙件数は2件、刑法等の法令違反による検挙件数は6件となっています。

しかし、これらはほんの氷山の一角でしょう。

では、どうすれば探偵業界を浄化していけるでしょうか?

事件はこうして起きた

「神奈川・逗子の女性殺害:ストーカー殺人 調査会社の男再逮捕 住所不正入手容疑」(2014年1月25日 毎日新聞)

いわゆる「逗子ストーカー殺人事件」は、元交際相手の男(当時40歳)が当時33歳の女性を逗子市のアパートで刺殺し、その後に首つり自殺をした事件でした。

男は、女性が他の男性と結婚したことを知ると、1,000通を超えるいやがらせメールを送りつけ、探偵などに依頼して住所をつきとめた末に凶行におよびました。

ところがその後、他の事件から逗子ストーカー殺人事件は思わぬ展開を見せました。

2013年11月、千葉県のガス会社の顧客情報が流出した事件で、苦情電話を装い威圧し、巧みに個人情報を奪ったとして東京都目黒区の調査会社の男が不正競争防止法違反(営業秘密侵害)の疑いで逮捕。

その後の取り調べで、この探偵業の男が逗子ストーカー殺人事件の被害者の住所の割り出しにも関わっていたことがわかったのです。

探偵業の男は、被害者女性の夫になりすまして逗子市納税課に電話。女性の住所を聞き出すなどして業務を妨害した疑いで、2014年1月24日に偽計業務妨害容疑で再逮捕されました。

リーガルアイ

「刑法」第233条(信用毀損及び業務妨害)
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

「偽計」とは、人をあざむく計略、策略のことです。この事件では、被害者女性の夫であると欺いて、市の業務を妨害した、ということです。

ところで、一連の事件の流れを整理すると、探偵業者がストーカー殺人事件にどう関わったのかが見えてきます。以下のようになります。

元交際相手の男が千葉県の探偵業者に依頼 → 千葉県の探偵業者が東京都目黒区の調査会社の男に外注 → 住所聞き出しを実行

じつは、探偵業に対する法律があります。
「探偵業の業務の適正化に関する法律」(通称、探偵業法)です。

これは、探偵業について必要な規制を定め、業務運営の適正を図り、個人の権利利益の保護に資するための法律です。

違反した場合、最高で「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」などの罰則と、公安委員会による廃業命令などの行政処分があります。

調査依頼者との間における契約内容などをめぐるトラブルや違法な手段による調査、調査対象者などの秘密を利用した恐喝、従業者による犯罪の発生など、悪質な探偵業者による不適正な営業活動があとを絶たないことから、2007年6月にこの法律が施行されました。

しかし現実には、探偵業者による犯罪はなくなっていません。
逗子市の事件でも千葉県の探偵業者は探偵業法に基づき、ストーカー目的でないことを確認する文書にも署名させていたようですが、防ぐことができませんでした。

そもそも、ストーカー狙いの人間が、「ストーカー目的ではない」という書類に署名捺印することに躊躇するでしょうか?

つまり、もともと効果に疑問のある念書だと言えるでしょう。

弁護士は依頼を受ける時、依頼目的は当然聞きます。さらに、相手に対する請求が正当かどうかを判断します。

「探偵業法」は、業者に対し違法行為が目的ではない旨を確認する書面を依頼者に提出させることを義務付けていますが、形骸化しているのが現状のようです。

本来、「秘密」を扱う探偵業者ならば、依頼の理由、背景、事情などを詳細に聞き取る必要が当然あると思います。
こうした取り組みによって、犯罪の温床となることをある程度防げることになるでしょう。

さらに、違法行為やストーカー目的が疑われる調査依頼の場合には、その調査を断る義務を課してもよいでしょう。

探偵業務の適正化については、法務省の監督に服する債権回収会社制度が参考になります。

「弁護士法」により、報酬を得て債権回収業務を行うことは、弁護士にしか許されていません。

債権回収業務は、暴力団などの資金源になったり、恐喝などの違法行為が行われやすいことから、安易に参入を認めるわけにはいかないところです。

ところが、バブル崩壊による大量の不良債権処理が必要となり、法務大臣の許可を得た債権回収会社は、弁護士法の例外として、債権回収業務を行えるようになりました。

この債権回収会社が、業務を適法に行うため、会社には必ず1人は取締役に弁護士を就任させ、債務者との交渉を逐一記録・保存させて法務省が立入検査によって監督できるようにしています。

そこで、この制度を参考に探偵業界の適正化を図ることが想定されます。

まず、適正に業務するために、探偵業者には必ず弁護士を最低1人取締役として就任させ、どのような依頼を受けて良いのか、どのような調査をしてよいのか、コンプライアンスの観点から監督させます。

そして、国家公安委員会などの許可法人のみが探偵業を営めるようにし、違法行為があれば許可を取り消すなど公安委員会の監督に服する、という形式にすれば悪徳探偵業者は一掃されるように思います。

さらに、調査費用の過大請求の問題もあります。
この点については、探偵業者が行った調査業務を細かく記録して備え付けるよう法律で義務づけ、あとで監査できる体制にし、国家公安委員会などの立入検査によって、業務と報酬の妥当性を監査する、という形にすれば法外な請求が防げるでしょう。

つまり、「探偵業者許可法人制」への移行ということです。

経営に役立つ無料セミナー・無料資料請求
PREVNEXT