待機時間に関する動画解説
仕事中の待機時間といえば、「ちょっと一息入れよう」と思う人も多いのではないでしょうか。
しかし、ひとつの疑問が湧きます。
会社に「待て」といわれた待機時間は、労働時間なのでしょうか、それとも休憩時間なのでしょうか?
この問題が争われた訴訟の判決があったので解説します。
待機時間に関する判決
「路線バス折り返しの待機中は“労働時間” 福岡地裁判決」(2015年5月20日 朝日新聞デジタル)
路線バスの終点到着後、折り返し運転で発車するまでの「待機時間」の賃金支払いを求めた訴訟の判決が福岡地裁であった。
原告は、北九州市営バスの嘱託運転手14人で、2012年に提訴していたもの。
「待機中も忘れ物の確認や車内清掃、乗客の案内をしており、労働から解放された休憩時間にはあたらない」と主張し、「待機時間も労働時間にあたる」として2年間の未払い金を請求していた。
対して、市側は「バスから離れて自由に過ごすことが許されている。休憩時間中に乗客対応をすることは求めていない」と主張。
裁判長は、「待機中も乗客に適切に対応することが求められており、労働時間にあたる」と認定。
市に対し、2010~11年分の未払い賃金として1人あたり約36万~120万円、計約1241万円を支払うように命じた。
待機時間は労働時間か休憩時間かを解説
【労働基準法が定める労働時間と休憩時間とは?】
まず、条文から労働時間と休憩時間の違いについて見ていきましょう。
労働時間とは、休憩時間を除いた、現に労働させる時間(実労働時間)のことで、「労働基準法」に定められています。
「労働基準法」
第32条(労働時間)
1.使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2.使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。
これを、「法定労働時間」といい、仮に、会社が法定労働時間外の勤務を従業員にさせた場合、「割増賃金」として残業代などを払わなければいけません。
一方、休憩時間とは、会社が従業員に自由に利用させなければいけないもので、次のように規定されています。
第34条(休憩時間)
使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
【過去の判例から労働時間について検証する】
次に、労働時間に関する判例を見てみましょう。
「労働時間は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」
(三菱重工業長崎造船所事件 最高裁一小平成12年3月9日民集54巻3号801頁)
労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間」のことで、
使用者の指揮命令は明示だけではなく、黙示の場合も含みます。
また、所定労働時間(就業規則等に記載された始業から終業までの時間で、休憩時間を除いたもの)以外に行われる業務、たとえば始業前の準備や後片付けなどの時間も、一定の場合には労働時間となることがあるので注意が必要です。
具体的には、次のような時間は労働時間となります。
・業務の準備、着替え、後片付け、事業所の掃除、休憩時間中の電話番や店番など。
・所定労働時間外の社内研修等の参加時間(出席が義務づけられている場合や、実質的に出席の強制があると思われる場合)。
・仮眠時間(警備の業務に従事している労働者が、仮眠中でも警報が鳴った場合等には直ちに業務に就くことを求められているような場合など)。
【休憩時間についての判断基準とは?】
では、休憩時間についてはどのような規定があるのでしょうか。
過去の「行政解釈」に以下のものがあります。
「休憩時間とは、単に作業に従事しない手待時間を含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間をいう」
(昭和22年9月13日 発基17)
行政解釈とは、法令の所轄行政官庁の具体的判断、または取扱基準として発せられるもので、たとえば、労働基準法に関するものであれば、厚生労働省から労働局や労働基準監督署に対して通達されるため、一般に「通達」とも呼ばれます。
この通達からわかるのは、実際には作業を行っていなくても、使用者からいつ就労の要求があるかわからない状態で待機している場合は、休憩時間に含まれず、労働時間になるということです。