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問題社員に対して会社は、けん責、減給、降格などの懲戒処分を自由に行うことができるか?

問題行動の多い従業員に対して減給や降格の懲戒処分を行うことを検討しています。減給や降格は、解雇するわけではないので、会社は自由にすることができるのでしょうか。

解説

企業が従業員に対して行う懲戒処分には、けん責・訓告・戒告、減給、出勤停止、休職、降格、論旨解雇、懲戒解雇などがあります。

会社が懲戒処分を行うには、あらかじめ就業規則に懲戒の理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度を規定し、当該就業規則に定める手続きを経て行わなければなりません。
また、就業規則は従業員に周知させておかなければなりません。

「使用者は、就業規則を常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付すること、その他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない。」(労働基準法106条)

その上で、懲戒処分としての減給や降格が有効となるためには、従業員の問題行動が就業規則上の懲戒事由に該当するとともに、減給や降格とすることが従業員の問題行動の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当である必要があります。
判例では、会社の業務用パソコンを利用して私的メールを交信したこと等を理由に行われた減給処分及び降任処分について、社会通念上重すぎて相当性を欠くとして無効とした裁判例があります。(判例を参照)

また、減給額については従業員の生活を脅かすおそれがあることから以下のとおり法律上の制限があります。

「就業規則で労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」(労働基準法91条)

判例

「全国建設工事業国民健康保険組合北海道東支部事件」
(札幌地裁判決 平成17年5月26日 労判929号66頁)

概要

健康保険組合は、課長職にあった職員X1氏に対し、課員が就業時間内に私的なメール交信を行っていることを知りながら、上司に報告せず、課員に注意しなかったこと、自らも業務用のパソコンを使用して課員と私的なメール交信を行ったことを理由に、3か月間基本給10%の減給処分及び課長職を免じ係長に降任する処分を行った。

また、健康保険組合は、職員X2氏に対し、業務用のパソコンに許可なくヤフーのメッセンジャーをインストールし、他の従業員にこれを利用した会話に参加するように勧誘したこと、チャットを利用して勤務時間中に外部の者と私的連絡や会話を行ったこと、業務用のパソコンを使用して就業時間中に職員間で私的なメール交信を行ったことを理由に、3か月間基本給10%の減給処分を行った。

X氏らは、これらの減給処分等は懲戒権の濫用であり無効であるなどとして、減給された賃金控除分及び処分前後の手当差額分の支払い等を請求した。

札幌地裁は、X氏らが行った私的なメール交信等は、備品である業務用パソコンを私用のために用いたものであるから、懲戒の理由となる事由は存在すると認めた。

その上で、札幌地裁は、X氏らの私的メール交信は頻度が多いとはいえないこと、業務用パソコンの取扱規則等の定めがない上、各職員のパソコンの私的利用に対して注意や警告がなかったこと、減給処分が労働基準法91条の「減給は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない。」との規定に違反していることなどから、X氏らに対する減給処分及び降任処分は社会通念上重すぎて相当性を欠き、懲戒権の濫用であって無効であるとして、健康保険組合に対し、減給された賃金控除分及び処分前後の手当差額分等の支払いを命じる判決が言い渡された。

減給や降格であっても会社は自由に懲戒処分をできるわけではありません。

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