現行民法のルール
「保証」とは、本来の債務者(主たる債務者)がお金を支払う義務を負っているにもかかわらず支払わない場合に、代わりに支払う義務を負うことをいいます。
債権者が債権の回収を確実にするための方法のひとつです。
「連帯保証」とは、債務者に財産があっても保証人に支払いを請求できるなど保証よりも債権者に有利な制度であり、一般的に連帯保証が利用されることが多いです。
以下では、「保証」と記載していても「連帯保証」を含みます。
変更点
(1)すべての個人根保証契約に極度額を設定することを義務化
根保証契約とは、継続的な取引から発生する債務をまとめて保証する契約のことをいいます。
契約の時点では特定していない、将来発生する不特定の債務を保証するため、保証人が負うことになる保証債務は非常に大きくなる可能性があります。
現行民法は、個人が保証人になる場合の個人根保証契約について、主たる債務者が負う主債務がお金を借りることである場合には、保証する上限額(極度額)を設定することとしていました。
改正民法では、主債務がお金を借りることである場合にかぎらず、すべての個人根保証契約において極度額を設定することを義務付けました。
極度額を定めていない個人根保証契約は無効となるとして、個人の保証人の保護を図っています。
極度額の上限については規定されていませんが、あまりにも高額な場合は公序良俗違反により無効となる可能性があります。
(2)公証役場における保証意思の確認手続を新設
会社が事業用の資金の借入れをするときの保証人には、その会社の経営者や大株主がなることが多く、個人事業主が事業用の資金の借入れをするときの保証人には、共同事業者や事業を手伝っている配偶者がなることが多いです。
そのような人がいない場合や何らかの事情があって保証人になることができない場合には、事業に関与していない友人や家族などが保証人になることがあります。
主債務が増えて主たる債務者が支払えない状態になると、当初は想定していなかった金額を保証人が支払わなければなりません。
保証人が支払えずに破産してしまうことも少なくありませんでした。
そこで、改正民法は、事業用融資の保証人に個人がなろうとするときは、事前に公証人に保証意思を確認してもらうための手続をとらなければならないこととしました。
保証契約の締結日前1か月以内に、保証人になる本人が公証役場に出向く必要があり、代理人によることはできません。
公証人は保証人になろうとする人に、主債務の内容を認識しているか、保証することによって大きなリスクにつながる可能性があることを理解しているかなどを尋ね、本当に保証する意思があるのかを確認します。
保証意思の確認ができた場合には、公証人は保証意思宣明公正証書を作成します。
この手続をとらないで締結した保証契約は無効です。
ただし、例外があります。
保証人になることが多い人として先に挙げた、会社の経営者や大株主、共同事業者や事業を手伝っている配偶者が保証人になる場合には、この手続をとらずに有効な保証契約を結ぶことができます。
(3)主たる債務者や債権者による情報提供義務を新設
保証人は、主たる債務者の財産状況が悪化してお金を支払えなくなったときに、代わりに支払いをしなければならない立場にあります。
しかし、保証契約は債権者と保証人との間で結ぶものであり、契約前に保証人が主たる債務者の財産状況を知る機会が必ず設けられているわけではありません。
保証人が主たる債務者に財産状況を尋ね、主たる債務者がそれに応じなかったとしても、契約違反とはなりませんでした。
改正民法は、事業から生じる債務の保証人になることを個人に依頼する場合には、主たる債務者から保証人になろうとする人に対して情報提供をしなければならないこととしました。
この規定は、事業から生じる債務であれば事業用の資金の借入れをする場合にかぎられないため、上記の保証意思の確認手続よりも広い範囲で適用されます。
提供する必要のある情報とは、主たる債務者の財産・収支状況、主債務以外に負っている債務の額や支払い状況、主債務の担保として提供したもの(提供予定のものを含む)の内容です。
これらは、保証人になるかどうかを判断する際に参考になる情報です。
主たる債務者が情報提供義務を果たさなかった、または正しくない情報を提供したことにより、保証人が誤った認識のまま保証契約を結んだときは、一定の場合に保証契約を取り消すことができます。
一定の場合とは、「主たる債務者が情報提供義務を果たさなかった、または事実でない情報を提供したこと」を債権者が知っていた場合か、知ることができた場合です。
また、改正民法では、保証人になった後に債権者から主債務の支払い状況などの情報提供を受けることができるしくみをつくりました。
主債務が期限内に支払われているかどうかは、保証人にとって重要な情報です。
主たる債務者の依頼を受けて保証人になった人の請求があったときは、債権者は主債務の支払い状況などの情報を提供しなければなりません。
その場合の保証人は個人だけでなく法人も含まれ、主債務の内容も事業から生じるものにかぎられません。
主債務の支払いが遅れた場合に、まだ支払い期限が来ていない債務についても一括で支払わなければならなくなることを期限の利益の喪失といいます。
債権者は、主たる債務者が期限の利益を喪失したことを知ってから2か月以内に保証人にそのことを通知しなければなりません。
仮に2か月を過ぎてしまっても通知をする必要があり、その場合は期限の利益を喪失したときから通知をするまでに生じた遅延損害金を保証人に対して請求することができなくなります。
この規定の適用があるのは、保証人が個人の場合にかぎられます。
契約書への影響
(1)極度額の定めがない個人根保証契約は無効となるため、極度額の定めを置く必要があります。
変更例
変更前(連帯保証)
「連帯保証人は、本契約にもとづき買主が売主に対して負担する一切の債務を連帯して保証する。」
変更後(連帯保証)
「連帯保証人は、本契約にもとづき買主が売主に対して負担する一切の債務を極度額○円の範囲内で連帯して保証する。」
(2)公証人による保証意思の確認は、保証契約を結ぶ前に公証役場において行うものであるため、契約書の内容に影響はありません。
保証意思の確認のために公証役場に出向く際に、債権者も同行して保証契約を公正証書により結ぶことも考えられますが、保証意思の確認と保証契約の締結を同時に行うことは望ましいことではないとされています。
(3)保証契約を結ぶ前に、主たる債務者から保証人に対して財産・収支状況などの情報提供がされたかどうかは、証拠を残さなければ後日トラブルになる可能性があります。
そこで、情報提供がされたことを保証契約書に記載するべきです。
変更例
新設(主たる債務者による情報提供)
「連帯保証人は、主たる債務者から下記の事項に関する情報提供を受けたことを確認する。
(1)主たる債務者の財産・収支状況
(2)主たる債務者が主債務以外に負担する債務の有無、その額及び支払い状況
(3)主たる債務者が主債務について担保を提供していないこと(※担保を提供している場合はその内容を記載する)」
いつから適用になるか
改正民法は、施行日である2020年4月1日から適用されます。
保証契約を結んだ日と施行日のどちらが早いかによって、現行民法と改正民法のどちらが適用されるかが異なります。
保証契約を結んだ日が施行日よりも早い場合には現行民法が適用され、施行日と同じか施行日よりも遅い場合には改正民法が適用されます。
ただし、公証人による保証意思の確認は、2020年3月1日から改正民法が適用されます。
この確認手続は保証契約の締結日1か月前以内に行うものであるため、他の規定よりも施行日を1か月早くしています。