退職給付引当金は、従業員の将来の退職に備えて費用を計上する際に用いる勘定科目です。
中小企業でも退職給付引当金による経理処理を行うことがありますが、会計上と税務上では取扱いが異なります。
本記事では、退職給付引当金の会計上と税務上の違いおよび、実務上の留意点について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
退職給付引当金の概要
退職給付引当金とは、従業員が退職時に受け取る退職一時金や年金について、将来の給付見込額のうち、期末までに発生したと算定される額を負債として貸借対照表に計上するものです。
会計上は、将来の支出に備え、費用を各期に適切に配分することで、期間損益計算の適正化を図る目的があります。
このような会計処理は、企業が将来の財務リスクを適切に財務諸表へ反映させるための重要な手続きです。
退職給付引当金を会計処理する際の留意点
退職給付引当金を会計処理する場合は、計上方法や財務への影響を正しく理解しておく必要があります。
引当金の計上方法と損益への影響
退職給付引当金の会計処理では、将来の支払予定額のうち、当期に発生したと見積もられる分を損益計算書に「退職給付費用」、同額を貸借対照表に「退職給付引当金」として計上します。
引当額が大きい場合はその期の利益を押し下げますが、適切に毎期計上することで、将来発生しうる多額の退職金支出による財務的な衝撃を平準化することが可能となります。
退職給付引当金の計算式
退職給付引当金は、原則として「退職給付債務」から「年金資産」を差し引いて算出します。
<計算式>
退職給付債務 - 年金資産 = 退職給付引当金
退職給付債務は、将来支払うと見込まれる退職給付のうち、現在価値に割り引いて計算した金額です。
年金資産とは、退職給付の支払いに充てるために積み立てられた資産のうち、一定の要件を満たす資産をいい、この差額が貸借対照表に計上される退職給付引当金となります。
一方で、誤計算は財務諸表に重大な影響を与える可能性があります。
中小企業向けの簡便法
「中小企業の会計に関する指針」では、中小企業の実務に配慮した簡便的な計算方法が認められています。
退職一時金制度のみを採用している場合、期末時点で従業員が自己都合で退職した場合に支払われる退職金(期末自己都合要支給額)を退職給付債務とすることができます。
多くの中小企業では年金資産がないため、この簡便法を適用すると計算が非常にシンプルになります。
<計算式>
退職給付債務 = 退職給付引当金