常に雇用使用されている従業員は厚生年金への加入が必須であり、会社は保険料の半分を負担しなければなりません。
役員も基本的には厚生年金に加入することになりますが、一定の条件に該当する場合には加入が強制ではないケースもあります。
本記事では、厚生年金保険の加入条件と、役員に対する社会保険の取扱いについて解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
厚生年金保険の適用事業所とは
厚生年金保険には、加入が強制される「強制適用事業所」と、任意で加入する「任意適用事業所」の2種類あります。
強制適用事業所
強制適用事業所に該当するのは、株式会社などの法人および、農林漁業やサービス業などの一部の業種を除く従業員が常時5人以上いる個人事業所主です。
令和4年10月からは、士業の個人事業所の一部についても強制適用事業所に該当するようになります。
被保険者となるべき従業員を雇用使用している際は、厚生年金保険への加入が義務となっていますので、必ず加入手続きをしなければなりません。
任意適用事業所
任意適用事業所とは、強制適用事務所以外の事業所のうち、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受け、厚生年金保険の適用となった事業所をいいます。
申請には条件があり、従業員の半数以上が厚生年金保険の適用事業所となることに同意した場合に限られます。
法律改正による厚生年金保険の加入条件の拡大
厚生年金保険の加入すべき従業員等の範囲は、法律改正により年々が広がっています。
平成28年10月改正による変更点
平成28年10月から、特定適用事業所で働くパート・アルバイト等の短時間労働者は、一定の要件を満たすことで健康保険・厚生年金保険の被保険者となります。
短時間労働者が被保険者になるのは、次の要件を満たした場合です。
●1週間の所定労働時間が20時間以上であること
●雇用期間が1年以上見込まれること
●賃金の月額が88,000円以上であること
●学生でないこと
特定適用事業所は、事業主が同一である一または二以上の適用事業所で、短時間労働者を除く被保険者の総数が常時500人を超える事業所をいいます。
特定適用事業所でない場合でも、労使合意を得ることにより、任意特定適用事業所になるための申請が可能です。
任意特定適用事業所は、国または地方公共団体に属する事業所および、特定適用事業所以外の適用事業所で、労使合意に基づき短時間労働者を健康保険・厚生年金保険の適用対象とする申出をした適用事業所をいいます。
令和4年10月改正による変更点
令和4年10月からの法律改正に伴い、特定適用事務所の要件と短期労働者の適用要件が変更になり、短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用範囲が拡大されます。
〇改正事項:特定適用事業所の要件
●令和4年10月以降
被保険者の総数が常時100人を超える事業所(短時間労働者を除く)
●令和4年9月以前
被保険者の総数が常時500人を超える事業所(短時間労働者を除く)
〇改正事項:短時間労働者の適用要件
●令和4年10月以降
雇用期間が2カ月を超えて見込まれること(通常の被保険者と同じ)
●令和4年9月以前
雇用期間が1年以上見込まれること
令和6年10月からの改正
令和6年10月の改正では、特定適用事業所の要件の一つである、短時間労働者を除く被保険者の総数が「常時100人を超える事業所」が、「総数が常時50人を超える事業所」に変更されます。
法人役員の社会保険の加入条件
法人役員の社会保険の加入条件は、役員が法人代表者に該当するかによって判断基準が異なります。
法人代表者である役員の加入条件
役員が法人の代表者であり、役員報酬の支払を受けている場合には厚生年金保険に加入しなければなりません。
ただし、役員報酬が支払われていない「ゼロ報酬」に該当する際は、社会保険の加入は必須ではなくなります。
法人代表者でない役員の加入条件
法人の代表者でない役員の場合、常勤役員と非常勤役員のどちらに該当するかによって、判断基準が変わってきます。
常勤役員については、原則として厚生年金保険に加入しなければいけませんが、ゼロ報酬の場合はその限りではありません。
非常勤役員については、役員報酬の支払いを毎月行っていたとしても、厚生年金保険の加入は強制ではありませんないです。
役員の常勤・非常勤の判断基準
日本年金機構では、役員が常勤・非常勤のどちらに該当するかについて、次の6つを総合的に勘案し判断することとしています。
●定期的な出勤の有無
●当該法人の職以外に多くの職を兼ねているか
●役員会等への出席の有無
●他の役員への連絡調整はまたは労働者に対する指揮監督に従事しているか
●法人の求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないか
●役員報酬が労務の内容に相応しており、実費弁償程度の水準にとどまっていないか
上記の要素で常勤・非常勤の判断が難しい場合には個別案件となりますので、日本年金機構に相談することもご検討ください。