上場株式等の譲渡所得や配当所得は、所得税と住民税で異なる課税方式を選択することが可能でしたが、令和5年分の所得税(住民税は令和6年度)からは課税方式が統一されることになりました。
本記事では、上場株式等の譲渡所得および配当所得に係る課税方式の統一に関する税制改正の概要と、課税方式の統一による影響について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
税制改正による譲渡所得・配当所得に対する課税方式の変更点
令和4年度の税制改正で、令和5年分の所得税および令和6年度の住民税から、上場株式等の譲渡所得等と配当所得等の課税方式が統一されることが決定しました。
従来は納税者が選択をすることで、所得税と住民税で異なる課税方式を用いることができましたが、金融所得課税の一体化や公平性の観点から、今後は同じ課税方式で税額計算をしなければなりません。
たとえば上場株式等の配当所得は原則分離課税の対象ですが、所得税では総合課税により税額計算を行い、住民税においては申告不要制度を選択することも可能でした。
しかし、課税方式が統一される令和5年分(住民税は令和6年度)からは、所得税において配当所得を総合課税で計算してしまうと、住民税も強制的に総合課税で計算することになります。
上場株式等の譲渡所得・配当所得の各課税方式の特徴
上場株式等の譲渡所得の課税方式は分離課税・申告不要制度の2種類、上場株式等の配当所得の課税方式は、総合課税・分離課税・申告不要制度の3種類が存在します。
上場株式等の譲渡所得の課税方式
上場株式等の譲渡所得は、証券会社等で譲渡所得に対する所得税が源泉徴収されていれば確定申告に譲渡所得を記載する必要がありません。
多額の売却益が発生していたとしても、国民健康保険料などの算定から譲渡所得の額は除外されますので、気にすることなく株式売買を行うことができます。
ただ上場株式等の譲渡損益は証券会社ごとで計算しますので、証券会社ごとの損益を相殺するためには確定申告が必要です。
譲渡損失を最長3年間繰り越すことができる「繰越控除制度」も確定申告が必須であるため、特定口座(源泉徴収有)で取引している方でも、収支の状況次第では申告した方がいいケースもあります。
譲渡損失の繰越控除制度は所得税の制度であることから、住民税の申告をするメリットはなく、後期高齢者などに該当する方は、収入基準額で自己負担割合が変わる可能性があるので注意しなければなりません。
令和4年分までの所得税までは譲渡所得の申告を行い、住民税では申告不要制度を適用することで自己負担割合の増加等のリスクを軽減できました。
しかし、令和5年分の所得税の申告からは課税方式が統一されるので、申告した際のデメリットを考慮した上で申告の有無を判断することになります。
上場株式等の配当所得の課税方式
上場株式等の配当所得は源泉徴収されていますので、原則は確定申告する必要はありませんが、上場株式等の譲渡所得との損益通算は認められていることから、譲渡損が発生しているときは分離課税の配当所得として申告するのも選択肢の一つです。
配当所得を総合所得で申告する場合、所得金額に応じて税率が変動するため、適用される税率が高くなるリスクはありますが、配当控除を適用できるのが大きな利点です。
所得税の配当控除は最大10%の税額控除を受けられるため、課税所得金額が一定以内であれば、総合課税を選択して申告するだけで還付金を得られることもあります。
配当所得を申告するデメリットは、国民健康保険料等を算定する際のベースとなる金額が増えてしまう点です。
以前は所得税で配当所得を申告しても、住民税で申告不要制度を選択すれば配当所得を国民健康保険料等の算定金額から除外することもできましたが、課税方式が統一されることにより、今後は課税方式の変更によるメリットだけを享受するのは難しくなります。