農地を譲渡したときに適用できる譲渡所得の特例制度は複数存在し、800万円特別控除は、農地保有の合理化等のために農地等を手放した際に適用できる制度です。
本記事では、800万円特別控除の特例制度の要件と、適用する際の注意点について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
「農地保有の合理化等のために農地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除」の概要
「農地保有の合理化等のために農地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除」(通称:譲渡所得の800万円特別控除)は、農業委員会からのあっせん等により農業振興地域内の農地を譲渡した際、一定の要件を満たすことで特別控除として譲渡益から800万円を差し引くことができる制度です。
農地保有の合理化とは、農業経営の規模拡大や農地の集団化などにより、零細経営や零細土地保有の形態を効率的な農業生産が展開できるような保有形態に合理化することをいいます。
農地利用目的による譲渡で適用できる特例制度は800万円特別控除以外に、1,500万円特別控除および2,000万円特別控除があり、収用対象となった農地に対しては5,000万円特別控除が適用できます。
<農地に対して適用できる譲渡所得の特別控除>
- ・800万円特別控除(措法34条の3)
- ・1,500万円特別控除(措法34条の2)
- ・2,000万円特別控除(措法34条)
- ・5,000万円特別控除(措法33の4)
譲渡所得の800万円特別控除の適用要件
譲渡所得の800万円特別控除の適用対象となる 「農地保有の合理化等のための譲渡」に該当する譲渡は、次の通りです。
- ・農地中間管理事業の推進に関する法律に基づく農用地利用集積等促進計画、農業委員会のあっせん等により農用地区域内の農地を譲渡した場合
- ・農用地区域内の農地を農地中間管理機構に譲渡した場合
- ・農村地域への産業の導入の促進等に関する法律に規定する、実施計画において定められた産業導入地区内の土地等を、その実施計画に係る施設用地の用に供するため譲渡した場合
- ・土地改良法による土地改良事業が施行され、換地処分による清算金を取得した場合
- ・林業経営の規模の拡大、林地の集団化その他林地保有の合理化に資するため、森林組合または森林組合連合会に委託して、森林法の規定による地域森林計画の対象とされた山林に係る土地を譲渡した場合
- ・農業振興地域の整備に関する法律による交換分合が施行された場合において、取得すべき土地を定めないで清算金を取得した場合
農地が棚卸資産等である場合や、立木を譲渡した際には適用することはできません。
譲渡所得の800万円特別控除の適用要件に譲渡資産の所有期間はないため、農地が短期譲渡所得と長期譲渡所得のどちらに該当する場合でも、特例は適用可能です。
要件を満たす農地に短期譲渡所得と長期譲渡所得があるときは、先に短期譲渡所得から特別控除を差し引き、残存の控除額がある場合には長期譲渡所得から差し引くことになります。
なお、特例要件を満たす譲渡であったとしても、下記の特例制度との併用適用はできないのでご注意ください。
- ・特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例(措法37条)
- ・特定の事業用資産を交換した場合の譲渡所得の課税の特例(措法37条の4)