農地に係る相続税の納税猶予は、農業相続人が相続後も自ら農業を営むことを条件とした制度です。
納税猶予の対象となる農地の貸付行為は原則確定事由に該当しますが、特定貸付けであれば納税猶予は打ち切りになりません。
本記事では、相続税の納税猶予を適用している場合における、特定貸付けの特例措置について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
農地に係る相続税の納税猶予の
特定貸付けの特例とは
「相続税の納税猶予を適用している場合の特定貸付けの特例」(租税特別措置法第70条の6の2)は、納税猶予を継続しつつ、農地を貸し付けることができる制度です。
農地に係る相続税の納税猶予は、農業相続人が特例農地等を引き続き農地として利用しなければいけませんが、農業相続人が特例農地等を特定貸付けした際は、一定の手続きを行うことで納税猶予を継続することができます。
特定貸付けは、農業経営基盤強化促進法等に基づく事業による貸付けをいい、特定貸付けに該当しない農地の貸付けは、納税猶予の確定事由に該当することになるので注意が必要です。
特定貸付けの特例を
適用するために必要な手続き
特定貸付けの特例を適用する際は、特定貸付けを行った日から2か月以内に、「相続税の納税猶予の特定貸付けに関する届出書」を税務署へ提出しなければなりません。
農業経営基盤強化促進法等に基づく事業による貸付けとは、農地中間管理事業または、利用権設置等促進事業(農用地利用集積計画)に基づくものをいい、対象となる農地は市街化区域外に所在する農地等に限られます。
特定貸付けを行っている特例農地等に貸付期限が到来した場合、貸付期限から2か月以内に貸付期限が到来した特定貸付農地等について、新たな特定貸付けを行っている旨または、農業相続人が農地として利用している旨を記載した届出書を税務署に提出しなければなりません。
ただし、貸付期限の翌日から1年を経過する日(貸付猶予期日)までに新たな特定貸付けを行う見込みがあれば、貸付期限から2か月以内に税務署へ承認申請を行い、税務署長の承認を受けることで納税猶予の確定を回避できます。
特定貸付けの対象となる
特例農地等の範囲
特定貸付けの対象となる農地等は、都市計画法第7条第1項に規定する市街化区域内に所在する農地等以外の租税特別措置法施行令第40条の6第52項1号に規定する地域に所在する農地等です。
納税猶予の対象となっている特例農地等のうち、次に該当するものは特定貸付けの対象から除かれます。
<特定貸付けの特例の適用できない特例農地等>
- ・措置法第70条の6第1項に規定する準農地である特例農地等
- ・措置法令第40条の7第71項第2号または第3号に掲げる敷地または、用地である特例農地等
- ・措置法第70条の6第9項の規定の適用を受ける特例農地等
- ・措置法第70条の6第10項に規定する貸付特例適用農地等
- ・措置法第70条の6第22項に規定する一時的道路用地等の用に供するため同項に規定する、地上権等の設定に基づく貸付けの対象となっている特例農地等(※)
- ・措置法第70条の6第28項に規定する、営農困難時貸付けの対象となっている特例農地等
- ・措置法第70条の6の4第1項に規定する認定都市農地貸付けまたは、農園用地貸付けの対象となっている特例農地等
※ 地上権等の設定に基づく貸付けの対象となっている特例農地等のうち、農業相続人が特定貸付けを行っていた特例農地等の全部または一部について、一時的道路用地等の用に供するために特定貸付けに係る地上権等の権利または賃借権を消滅させ、一時的道路用地等の用に供するため地上権等の設定に基づく貸付けを行っている特例農地等のうち、措置法第70条の6第22項に規定する貸付期限が到来したものは除きます。
特定貸付けの特例を適用する際の提出書類
特定貸付けの特例を適用する際は、「相続税の納税猶予の特定貸付けに関する届出書」に次の書類を添付する必要があります。
【農地中間管理事業による使用貸借による権利または賃借権の設定に基づく貸付けを行う場合】
① 下記②および③に掲げる場合以外
- ・届出に係る特定貸付けを行った年月日を証する農地中間管理機構の書類
- ・届出に係る特定貸付けについて、農地法第3条第1項第14号の2の届出を受理した旨および、その届出を受理した年月日を証する農業委員会の書類
② 特定貸付けが農地中間管理事業の推進に関する法律第18条第8項に規定する農用地利用集積等促進計画の定めるところにより行われる場合
- ・届出の特定貸付農地等に係る農用地利用集積等促進計画につき、農地中間管理事業の推進に関する法律第18条第7項の規定による公告をした旨および、その公告の年月日を証する公告をした者の書類
③ 特定貸付けが福島復興再生特別措置法第17条の27に規定する農用地利用集積等促進計画の定めるところにより行われる場合
- ・届出の特定貸付農地等に係る農用地利用集積等促進計画につき、福島復興再生特別措置法第17条の26の規定による公告をした旨および、その公告の年月日を証する福島県知事の書類
【農用地利用集積計画の定めるところによる使用貸借による権利または賃借権の設定に基づく貸付けを行う場合】
- ・届出の特定貸付農地等に係る農用地利用集積計画につき、農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律(令和4年法律第56号)の規定による、改正前の農業経営基盤強化促進法第19条の規定による公告をした旨および、その公告の年月日を証する市町村長の書類
【令和5年3月31日以前の相続について、相続税の納税猶予の適用を受けている農業相続人のうち、特例農地等の中に相続で取得した時点において市街化区域内農地等であるものを有する人が特定貸付けを行った場合】
- ・特例農地等が同日において市街化区域内農地等であるものである旨および、その特例農地等の明細を記載した市町村長の書類