税務調査への備えは、企業活動の信頼性と継続性を守るために不可欠です。
特に、税務リスクを想定した内部統制の整備は、予期せぬトラブルの回避につながります。
本記事では、税務リスクマネジメントの視点から、実務に役立つ内部統制のポイントを解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
税務リスクマネジメントの基本構造
企業活動において、税務リスクの把握は、業務の透明性・信頼性に直結する重要な管理項目です。
税務リスクの定義
税務リスクとは、申告や納税の誤りによって、追徴課税や罰則を受ける可能性のことをいいます。
申告漏れや書類の添付漏れに加え、税務署との見解の相違によって、特例の適用および経費計上を否認されることも税務リスクの一つです。
企業の税務は、法人税、消費税、源泉所得税など、複数の税目が関係するため、税務リスクは複合的に発生します。
そのため、税目を横断したリスクマネジメントを行い、管理体制を整備することが求められます。
内部統制との関係性と重要性
内部統制とは、企業が業務の有効性・効率性、財務報告の信頼性、法令遵守などを確保するために、組織内で整備・運用される管理プロセスの総称です。
内部統制が適切に設計・遵守されていない場合、税務リスクへの対応が難しくなるだけでなく、部署間の連携不足によって、処理の誤りが生じる可能性が高まります。
一方で、内部統制が適切に機能していれば、税務調査への対応力が向上し、追徴課税に至る事態を回避しやすくなります。
税務リスクは、経理処理の正確性や証憑管理、社内承認プロセスを含めた業務フロー全体を通じて、抑制を図ることが重要です。
税務リスクに対応する内部統制の構築法
税務リスクを管理するためには、属人化を排除し、標準化された業務フローとチェック体制を構築することが求められます。
リスクマップと業務プロセスの整備
税務リスクを可視化するためには、税目ごとのリスクマップを作成することが有効です。
たとえば、申告業務の場合、入力・承認・申告・保存までの各工程を業務プロセスとして整備する方法があります。
責任者とチェック項目を明確にすることで、処理誤りの把握や対処が容易になります。
また、工程の分割は、リスクの発生箇所を特定しやすくなるだけでなく、工程ごとに予防措置を策定・実行できるのも利点です。
証憑管理と二重チェック体制の構築
請求書や領収書、契約書などは、税務署からの照会に対応するうえで欠かせない書類です。
種類ごとに保存期間は定められており、紙と電子では保存方法が異なります。
電子データの保存は、紙に比べて管理しやすい利点があります。
ただし、保存にあたっては改ざん防止措置を講じるとともに、「日付・金額・取引先」で検索できるようにしなければなりません。
また、ヒューマンエラーを完全に防ぐことは困難であるため、入力者と承認者の分離や、税務判断における二重チェック体制の整備も必要です。
関連部門との情報連携フローの作成
適正な税務処理を行うためには、職場内における情報連携が不可欠です。
源泉徴収に関する人事データ、交際費の使用実績、契約管理の状況など、税務処理に必要な情報が部署ごとに分散しているケースも少なくありません。
税務リスクを早期に検知するには、申告スケジュールやレビュー対象を関係部門と共有し、部門間の連絡体制を整備することが求められます。
情報の流れを可視化し、連携の精度を高めることが、税務処理の正確性および組織全体の対応力を向上させる鍵となります。
税務調査を想定した社内体制の構築
税務調査の実施を予測するのは難しいため、突発的に実施されても対処できるよう、事前に体制を整えておくことが大切です。
税務調査の初期対応で押さえるべきポイント
税務調査の通知を受けた段階で、対応責任者および窓口担当者を速やかに指定し、調査日程や提出資料の整理に着手できる体制を構築することが重要です。
調査対応にあたっては、資料リストの作成、過去申告内容の再確認、社内での情報共有を迅速に実施することで、調査の円滑な進行につながります。
税務調査官からは多岐にわたる質問が想定されるため、事前に想定問答集を作成しておくことも有効です。
社内対応フローには、事前通知対応、資料準備、当日対応、質疑応答、結果分析までを含めることで、抜け漏れのない運用が可能となります。
顧問税理士との連携体制の確認
顧問税理士との連携は、調査対応の信頼性を高めるとともに、納税者側の主張を税務調査官へ適切に伝えるためには不可欠です。
社内での判断が難しい論点や、過去の処理方針に関する事項については、事前に顧問税理士へ見解を求め、必要に応じて説明資料を整備してください。
また、税務調査の実施前に必要な情報を共有しておくことで、税務調査官との対応を円滑に進めることができます。