中小企業が経理業務に大きな負担を感じる場合、業務の一部または全部をアウトソーシングすることも有効な選択肢となります。
専門業者に委託することで、業務効率の改善やコスト削減などの効果が期待される一方、外部委託に伴うリスクや留意点も同時に把握しておくことが重要です。
本記事では、中小企業の視点に立ち、経理アウトソーシングのメリットとデメリットについて整理・解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
経理アウトソーシングとは何か
経理業務を外部の専門業者に委託する「経理アウトソーシング」は、業務負荷の軽減やコスト削減の手段として注目されています。
アウトソーシングの定義と経理業務への適用範囲
アウトソーシングとは、社内業務の一部を外部の事業者へ委託することをいいます。
経理分野では、記帳、仕訳、月次・年次決算、給与計算、支払処理などがアウトソーシングされることがあります。
外部委託する範囲は、企業のニーズやリソースに応じて柔軟に設定できるため、経理業務の一部だけを委託することも可能です。
中小企業で経理アウトソーシングが進む背景
中小企業では、人手不足で専門人材の確保が難しく、経理業務に割けるリソースが限られています。
経理業務は、売上や経費などの数値に直接影響を及ぼす可能性があるため、複雑な処理に対して高い精度が求められます。
こうした業務には専門知識を有する人材が不可欠ですが、特定の社員に業務が集中している場合、その社員の退職が事業運営に重大な影響を及ぼすリスクもあります。
このような課題を抱える中小企業にとって、経理業務のアウトソーシングは有効な選択肢の一つです。
近年ではクラウド会計ツールの普及により、遠隔でも正確かつ迅速な処理が可能となっており、以前に比べて導入のハードルも低くなっています。
経理業務をアウトソーシングするメリット
経理アウトソーシングには業務の効率化だけでなく、経営資源の適切な配分や精度向上といった多面的な利点があります。
コスト削減と生産性の向上
社内で経理担当者を育成するには、教育に要する時間や雇用に伴う費用が発生します。
しかし、経理業務をアウトソーシングすれば、経理にかかる費用を外部委託料に集約できるため、総合的なコスト削減が見込めます。
また、専門業者に依頼することで、経理処理の質が担保されるだけでなく、本業に人材を集中できるため、生産性の向上も期待できます。
専門業者への依頼で正確性を確保
経理処理はケアレスミスでも、大きな問題に発展する可能性を秘めています。
税制改正や特例制度の適用の有無で処理方法が変わることもあり、経理担当者には最新の税法や会計基準への理解も求められます。
記帳代行や申告補助を専門とする事業者は、税法や会計基準への理解が深く、制度改正にも迅速に対応します。
自社では判断が難しい論点についても、適切な処理が期待できるため、ミスや税務リスクの低減につながります。
繁忙期や突発業務への柔軟な対応力
決算期や申告前などの繁忙期には、自社の人員のみでは対応が困難となるケースも少なくありません。
しかし、アウトソーシングを活用することで、業務量の増減に応じた柔軟な体制を構築できるため、事業規模が急拡大した場合でも、安定的かつ効率的に対処することが可能です。
経理業務をアウトソーシングするデメリット
経理業務を外部に委託する以上、一定のリスクの発生は避けられないため、デメリットについても理解しておく必要があります。
委託先との認識の相違によるトラブル
経理業務を受託する外部業者が、自社の業務背景や業種特性を十分に把握していない場合、経理処理においてトラブルが発生する可能性があります。
たとえば、イレギュラーな対応が求められる場面において定型的な処理が実施された場合、関係部門との連携に齟齬が生じ、結果として誤処理や業務上の支障が発生するリスクがあります。
また、業務内容の説明不足や情報共有の不徹底は、提出遅延や処理ミスの原因となります。
こうしたリスクを回避するためには、導入初期における情報共有と業務設計を丁寧に進めることが重要です。
経理業務のノウハウを社内に蓄積できない
経理担当者を社内で雇用している場合、経理業務に関するノウハウが自社内に蓄積されるため、担当者が退職した際にも一定のリカバリーが可能です。
一方、経理業務を外部に委託した場合には、ノウハウが社内に蓄積されにくくなり、対応力の低下が懸念されます。
将来的な内部体制の構築や制度改正への対応を見据えるときは、外部委託に依存するのではなく、社内における業務理解と情報共有を並行して進める運用が求められます。
情報セキュリティリスク
経理業務には社外秘の情報が多く含まれるため、外部委託によって情報漏洩や不正利用のリスクが高まる可能性があります。
クラウド上でのデータ共有により作業効率の向上が期待される一方、セキュリティ対策は万全に講じる必要があります。
通信の暗号化やアクセス権限の設定に加え、契約書における守秘義務条項を明確に規定しておかなければ、問題発生時の対応が困難となるため、リスクを未然に防止するための運用体制の整備が不可欠です。