税務調査は、これまで原則として税務調査官が事務所等を訪問して実施されてきました。
しかし、一部の国税局管内では、令和7年9月からオンラインによる税務調査が本格的に導入されます。
本記事では、オンライン税務調査の仕組みと、実施にあたって求められる対応策について解説します。
目次
オンライン税務調査とは何か
オンライン税務調査とは、Web会議システムなどのオンラインツールを活用して実施される税務調査です。
この調査が導入された背景には、新型コロナウイルス感染症の影響があります。
感染症の流行下では、対面での税務調査が困難な状況が多く見られたため、これを契機に税務行政におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が加速しました。
オンラインによる税務調査は、国税局調査部と沖縄国税事務所調査課が所管する大規模法人を対象に、令和5年7月から試行されていました。
そして、令和7年9月からは対象範囲が拡大し、税務署の職員が実施する税務調査でもオンライン税務調査が行われるようになります。
令和7年9月から開始されるオンライン税務調査のポイント
国税庁では、デジタル庁が提供するガバメントソリューションサービス(GSS)の導入に伴い、令和7年9月から段階的にオンライン税務調査が実施される予定です。
オンライン税務調査の特徴
オンライン税務調査は、文字通りオンライン上でやり取りを行う形式の税務調査です。
Webexを用いて質疑応答などの概況聴取が実施され、データの受け渡しもオンラインストレージサービスを通じて行われます。
この調査は強制ではなく、納税者の同意に基づいて実施されます。
調査の事前には「オンラインツールの利用に関する同意書」の提出が求められるため、同意しない場合には、従来通りのオフラインによる税務調査が行われます。
国税庁の方針と導入スケジュール
令和7年9月以降は、オンライン税務調査の対象範囲が拡大され、法人・個人を問わず実施される見通しです。
税目についても、法人税に限定されず、所得税や相続税などが対象となる可能性があります。
なお、令和7年9月から実施されるのは、金沢国税局および福岡国税局管内の税務署です。
他の国税局等については、令和8年3月以降に順次導入される予定です。
オンライン税務調査のメリットと懸念点
オンライン税務調査が実施される際には、納税者側にも一定のメリットがありますが、懸念点も存在します。
税務調査の負担軽減
オフラインの税務調査では、税務調査官が対面で納税者から概況を聴取し、申告書作成時に使用した帳簿書類等を確認します。
納税者は、税務調査官が調べる関係書類を一通り準備する必要があり、作業場所も確保しなければなりません。
一方、オンライン税務調査では、やり取りがオンライン上で行われるため、会議室等の確保は不要となります。
税務調査官に提示する資料もデータで受け渡しできることから、調査を受ける側の労力がある程度軽減されると考えられます。
オフラインの税務調査は継続する
オンライン税務調査は、調査事項が明確である場合に実施されると考えられます。
脱税などが疑われるケースでは、調査担当者が現場を確認する必要があるため、当初からオフラインによる税務調査が行われます。
また、オンライン税務調査が実施されていた場合でも、解明できなかった事項や新たな疑問点が生じたときは、オフラインに切り替えて調査が実施される可能性があります。
従来調査の重要性は今後も変わりません。
情報漏洩リスクへの対応
オンラインで税務調査を実施する関係上、情報漏洩のリスクが懸念されます。
「オンラインツールの利用に関する同意書」には、セキュリティに関する事項も盛り込まれていますが、人的ミスを完全に防ぐことは困難です。
そのため、事前の環境整備や社内ルールの明確化が、実務上のリスク低減に不可欠となります。
セキュリティ面への配慮は必須です。
税務調査件数の増加
オンライン税務調査は、対面で実施される従来の調査に代わるものではなく、新たな選択肢として加わった調査手法です。
税務調査を実施する目的はオフラインの税務調査と同じであるため、オンライン・オフラインの違いによって調査対策の方法が大きく変わることはありません。
一方で、オンライン税務調査において税務調査官が把握している疑義が解消されない場合には、対面調査へ切り替えて実施される可能性もあります。
そのため、オンライン税務調査を受ける際には、関係資料を円滑に提示できるよう、事前にデータ整理などの準備を行っておくことが重要です。
まとめ
令和7年9月から本格始動するオンライン税務調査は、税務行政のデジタル化と業務効率化を象徴する取り組みの一つです。
Web会議システムやオンラインストレージを活用した非対面型の調査は、納税者の負担軽減が期待される一方で、情報漏洩リスクや調査対象者の拡大といった懸念も伴います。
今後、制度の本格導入に伴い、実施方法の見直しや運用の修正が行われる可能性もあるため、最新の動向を継続的に確認することが求められます。