人間の「身体」について、法律ではどのように規定しているのでしょうか?
また、身体を傷つけた場合、どのような罪が科されるのでしょうか?
今回は、人を傷つける罪について法律解説します。
事件はこうして起きた
「電車で女性の髪切った疑い 高2男子逮捕、神奈川」(2016年6月20日 産経新聞)
電車内で女性(25)の髪をはさみで切ったとして、神奈川県警緑署は、横浜市の高校2年の男子生徒(17)を暴行の疑いで現行犯逮捕した。
2016年6月20日午前7時40分頃、JR横浜線の中山-鴨居間を走行中の電車内で、立っていた女性会社員の髪を男子生徒が背後からはさみで切ったところ、これに気づいた女性が鴨居駅で降りた男子生徒を取り押さえ、駅員に引き渡した。
「性的欲求を満たすためにやった」と、男子生徒は容疑を認めているという。
リーガルアイ
傷害罪とは、「人の身体を傷害する」ことで成立する罪です。
「刑法」
第204条(傷害)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
傷害というと、多くの人は肉体を傷つけることと思うかもしれませんが、じつは刑法では、「身体」とは肉体と精神的機能の両方をいいます。
また、傷害とは、人の生理機能に障害を与えること、または人の健康状態を不良に変更することとされます。
どのような行為が「傷害罪」になるのか、過去の判例から抜粋してまとめてみました。
・皮膚の表皮離脱(大判大11・12・16集1-799)
・中毒症状・めまい・嘔吐させた(大判昭8・6・5集12-736)
・病毒の感染(最判昭27・6・6集6-6-795)
・陰毛の毛根からの脱取(大阪高判昭29・5・31高集7-5-752)
・失神させた(大判昭8・9・6集12-1593)
・処女膜の裂傷(大判大3・7・4録20-1403)
・無言電話等により人を極度に恐怖させて精神衰弱症に陥らせた(東京地判昭54・8・10判時943-122)
・自宅から隣家に居住する被害者に向けてラジオの音声や目覚まし時計のアラーム音を鳴らし続けて精神的ストレスを生じさせ、慢性頭痛症、睡眠障害等を負わせた(最決平17・3・29集59-2-54)
毛を抜くと傷害罪になる可能性がありますが、たとえば、カミソリで髪を根元から切り取った場合はどうでしょうか?
この場合も、傷害罪よりも軽い暴行罪と認められた判例があります(大判明45・6・20録18-896)。
暴行罪の条文を見てみましょう。
「刑法」
第208条(暴行)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
法的には、毛を抜けば生理機能に障害を生じるが、切っただけでは生理機能に障害が発生することにはならない、と判断されるということです。
ちなみに、人体の毛であれば、髪の毛だけでなく、眉毛や鼻毛、すね毛、胸毛でも、さらにはツメでも故意に抜いたら傷害罪、切ったら暴行罪になる可能性があります。
その一方で、