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自動車運転よって人を死傷させた場合の刑罰には、「自動車運転過失致死傷罪」(刑法第211条2項)と「危険運転致死傷罪」(刑法第208条の2)があります。
しかし、これらの刑罰ではなく、自動車のひき逃げを起こした男が「殺人未遂」容疑で逮捕される事件が起きました。
事件はこうして起きた
埼玉県川口市で、職務質問した警察官が車にひかれて重傷を負った事件で、川口署は2013年12月17日、無職の男(31)を公務執行妨害と殺人未遂の疑いで逮捕しました。
報道によると、川口市の住宅街のT字路付近で「車が中央寄りに止まっている」との通報があり、署員2名が現場に直行。
男性巡査(30)が運転手の男に職務質問したところ、男はいきなり車を急発進。
転倒した巡査の脚をひき、そのまま逃走していたようです。
「ひき殺そうとはしていない」として、男は容疑を否認しているということです。
リーガルアイ
この事件の逮捕容疑は、「公務執行妨害」と「殺人未遂」です。
「刑法」第95条(公務執行妨害及び職務強要)
1.公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
2.公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。
巡査の職務質問という公務に対して、男は車を急発進させて、巡査の脚をひくという「暴行」を加えて「妨害」したので、これは公務執行妨害になります。
ちなみに、職務質問に対して答えるのを拒否したり、ただ逃げただけでは公務執行妨害にはなりません。「暴行」も「脅迫」していないからです。
また、巡査は死亡していないので、殺人未遂ということになります。
「刑法」第203条(未遂罪)
第199条(殺人)及び前条(第202条 自殺関与及び同意殺人)の罪の未遂は、罰する。
では、なぜ「自動車運転過失致死傷罪」や「危険運転致死傷罪」ではなかったのでしょうか?
報道内容からだけでは詳細はわかりませんが、おそらく「未必の故意」が疑われたのではないかと思われます。
刑法上の重要な問題のひとつに「故意」と「過失」があります。
「故意」とは、結果の発生を認識していながら、これを容認して行為をすることで、刑法においては「罪を犯す意思」のことをいいます。
一方「過失」は、結果が予測できたにもかかわらず、その予測できた結果を回避する注意や義務を怠ったことです。
「刑法」第38条(故意)
1.罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りではない。
では、どのような場合に故意が認められ、または過失が認められるのでしょうか?
その境界線のように存在するものに「未必の故意」があります。
ある行為が犯罪の被害を生むかもしれないと予測しながら、それでもかまわないと考え、あえてその行為を行う心理状態を「未必の故意」といいます。
容疑者の男は、100%巡査を殺そうとして車を発進させたのか? たんなる不注意だったのか?
それとも、死ぬ確率は100%ではないが0%でもなく、死ぬかもしれないが「それでもかまわない」と思ってアクセルを踏んだのか? ということです。
殺人罪の未必の故意があれば、殺人罪となりますが、今回のような事件で「死んでもかまわない」とまで思っているケースはそれほど多くはないでしょう。
となると、殺人罪の故意がない、ということになり傷害罪になりそうです。
「刑法」第204条(傷害)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
「殺そう」「死んでもかまわない」とは思っていなくても、