少子高齢化社会に突入している日本では、さまざまな問題が山積しています。
そうした中、近年クローズアップされていることのひとつに認知症の高齢者の問題があります。
徘徊することで行方不明になったり、電車事故に巻き込まれたりするケースや、高速道路での逆走などでニュースになる機会も増えてきました。
そして当然、事故が発生した場合には、損害賠償責任が問題になる可能性があります。
事件はこうして起きた
2007年12月、愛知県大府市で、「要介護4」の認定を受け徘徊症状がある認知症の男性(当時91歳)が、妻(当時85歳)らが目を離した隙に外出し、JR東海の電車にはねられ死亡する事故が発生。
同社は男性の親族に対して、「運行に支障が出た」として損害賠償訴訟を提起した。
第一審判決は、「目を離さず見守ることを怠った」と男性の妻の責任を認定。
長男も、「事実上の監督者で適切な措置を取らなかった」としてJR東海側の請求通り、男性の妻と長男に対して720万円の支払を命じた。
第二審の名古屋高裁は、「20年以上男性と別居しており、監督者に該当しない」として長男への請求を棄却。
妻の責任は1審に続き認定し、男性の妻に対して359万円の支払を命じていた。
第二審の判決後、遺族側の代理人は、「高齢ながら、できる限り介護をしていた妻に責任があるとされたのは残念。不備があれば責任を問われることはあり得るのだろうが、家族が常に責任と隣り合わせになれば在宅介護は立ちゆかなくなってしまう」とのコメントを発表している。
2016年3月1日の上告審判決で、最高裁第3小法廷は、男性の妻に賠償を命じた2審名古屋高裁判決を破棄、JR東海側の逆転敗訴を言い渡し、判決が確定した。
超高齢化を背景に、国土交通省は2014(平成26)年から認知症患者が絡む鉄道事故について報告するように鉄道会社に対して義務付けている。
同年では、認知症患者が絡む鉄道事故は29件発生し、そのうち22人が死亡しているという。
詳しい解説はこちら⇒
「検証!いくらかかる?鉄道事故の損害賠償金」
リーガルアイ
実際、同居していた妻は高齢のうえ、足が不自由で「要介護1」の認定を受けていたことなどから、「監督義務を負わせるのは酷だ」と、1、2審判決に対する批判も多くありました。
また、介護の方針を決定していたとされる長男の責任についても、認知症を抱える家族らからは、「同居していない家族に責任を負わせれば、家族による積極関与が失われ、介護の現場は崩壊する」と反発が出ていたようです。
報道にあるように、今回の争点は男性の妻や長男らが、「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」かどうかでした。
条文を見てみます。
「民法」
第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
1.前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
民法第714条は、そもそもは「子供に対する親の監督義務」を想定して規定されました。
そのため、「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」には、次のものがあげられます。
・子供の親権者(民法第820条)
・親権代行者(民法第833条・867条)
・後見人(民法第857条・858条)
・児童福祉施設の長(児童福祉法第47条)等
たとえば、