自動運転車の開発競争が世界中で加熱しています。
しかし、実用化には技術的な問題とともに、さまざまな法整備の問題が指摘されています。
自動運転車で事故が起きた場合、一体、誰の責任になるのでしょうか?
そもそも、現行の日本の法律上、公道で運転することはできるのでしょうか?
事件はこうして起きた
「米グーグルの自動運転車が事故 過失でバスと接触」(2016年3月1日 日本経済新聞)
2016年2月中旬、アメリカのグーグル社が開発中の自動運転車が事故を起こしていたことがわかった。
カリフォルニア州の公道での走行実験中にバスと軽い接触事故を起こし、ケガ人はいなかったが、今回の自動運転中の事故はグーグル側に過失がある初めてのケースとなった。
グーグル社の持ち株会社アルファベット傘下で自動運転車の開発を手掛ける子会社が2月23日付でカリフォルニア州に報告した内容によると、
走行していた道路の右側前方に砂袋を発見したため、いったん停止し、左側に避けようと発進したところ、左後ろからやってきたバスと接触したという。
グーグル社の自動運転車は時速2マイル(約3キロ)以下、路線バスは約15マイル(約24キロ)で走行中だったとしている。
グーグル社は2009年に自動運転車の開発を開始し、報道時までに累計140万マイル(約225万キロ)以上を自動運転モードで走行。
これまでに20件近い軽度の事故を報告しているが、いずれも相手側の過失による「もらい事故」か、人間のテストドライバーが運転中のものだった。
また、2016年6月30日には高級EV(電気自動車)メーカーとして知られるアメリカのテスラモーターズが、同社のセダンが自動運転機能を作動した状態で走行中に衝突事故にあい、運転者が死亡したと発表。
テスラ社は、2015年には、車線変更や速度調整、さらにはブレーキまで自動制御する自動運転機能を発表していた。
こうした事故を受けて、国土交通省と警察庁は7月6日、「現在の技術は完全な自動運転ではなく、ドライバーの支援だ。安全運転の責任はドライバーにある」と注意を呼びかけ、国内メーカーに対し、車の販売時に顧客に説明を尽くすよう求めた。
リーガルアイ
自動運転車は、これまでドライバーが行ってきた「認知」、「判断」、「操作」といったものを任せることで、人為的なミスによる交通事故を減らしたり、高齢者の移動に役立てることが期待されています。
では、実際に日本の公道で走行させることができるのか、事故が起きた場合は誰の責任になるのか、法律と照らし合わせて見ていきます。
【道路交通法】
道路交通法は、道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図ることを目的としています。
第70条(安全運転の義務)
車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
つまり、道路交通法上、ハンドルやブレーキなどの操作を任せる完全な自動運転車の走行は許されていないため、現状では運転できないということです。
ちなみに、日本の国内基準では、自動運転技術について次のように設定しています。
・レベル1(安全運転支援)/加速、ブレーキ、ハンドル操作のうち、いずれかを自動化。
・レベル2(準自動走行)/上記3操作のうち複数を自動化。たとえば、自動ブレーキと車線変更など。
・レベル3(準自動走行を進化)/上記3操作を自動化しつつ、緊急時だけドライバーが対応。
・レベル4(完全自動走行)/運転をすべて自動化、ドライバーは何もしないもの。
【道路運送車両法】
道路運送車両法には以下のような目的があります。
・道路運送車両について所有権の公証等を行う
・安全性の確保、公害の防止、その他の環境の保全
・自動車整備についての技術の向上を図る
・自動車の整備事業の健全な発達に資することで公共の福祉を増進する
第41条(自動車の装置)
自動車は、次に掲げる装置について、国土交通省令で定める保安上又は公害防止その他の環境保全上の技術基準に適合するものでなければ、運行の用に供してはならない。
自動車の装置に関して、全部で20の装置が規定されていますが、その中に、3.操縦装置と4.制動装置があります。
つまり、ハンドル、アクセル、ブレーキなどが国土交通省令で定める基準に合致していなければ運行してはいけないということになります。
【自動車損害賠償保障法】
自動車損害賠償保障法は、自動車の運行によって人の生命や身体が害された場合の損害賠償を保障する制度を確立することで、被害者を保護し、自動車運送の健全な発達に資する目的で施行されたものです。
第3条(自動車損害賠償責任)
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
運行供用者とは次の者をいい、この法律では自動車事故による損害賠償責任を負わせています。
・「自動車を運転していた人」
・「自動車の運転・走行をコントロールできる立場にある人」(自動車の管理と運転者への指導管理を含む)
・「自動車の運行から利益を受けている人」(自動車の所有者も含む)
つまり、自動運転車が事故を起こした場合でも、車の所有者や運転者が訴えられてしまう可能性がかなり高いことになります。
この運行供用者が賠償責任を免れるためには、以下のことを証明する必要があります。
1.故意・過失がなかったこと
2.被害者または運転者以外の第三者に故意・過失があったこと
3.自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと
これは、実質的な無過失責任を認めたものといわれています。
無過失責任とは、不法行為によって損害が生じた場合には加害者が、その行為について「故意・過失」がなくても、損害賠償責任を負うということです。
もちろん、自動運転車の構造や機能に欠陥があった場合にはメーカーの責任が問われます。
しかし、