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寄託に関する見直し【民法改正のポイント】

現行民法のルール

「寄託」とは、物の保管を依頼することです。

依頼する人を寄託者、依頼されて保管する人を受寄者といいます。

寄託者が受寄者に物の保管を依頼して、受寄者がこれを承諾して物を受け取ることによって寄託契約が成立します。

以下では、寄託する物を「寄託物」と呼びます。

寄託物の引渡しが寄託契約の成立要件となっているため、寄託者が受寄者に寄託物の保管を依頼して受寄者が承諾しただけでは寄託契約は成立しません。

このように、物の引渡しが成立要件となっている契約を要物契約といいます。

反対に、意思表示の合致のみで成立する契約を諾成契約といい、売買契約や贈与契約がこれにあたります。

変更点

(1)寄託契約を要物契約から諾成契約に変更

現行民法では寄託契約は要物契約とされていますが、実際には意思表示の合致のみで成立する寄託契約が認められています。

そのため、現行民法と取引実務が合わないと指摘されていました。

改正民法は、寄託者が受寄者に寄託物の保管を依頼して、受寄者がこれを承諾することによって寄託契約が成立すると定め、要物契約から諾成契約に変更しました。

現行民法の下では要物契約であった消費貸借契約も、改正によって意思表示の合致のみで成立することが認められましたが、契約書を作成することが条件となっています。

寄託契約は消費貸借契約とは異なり、口頭で契約する場合でも意思表示の合致のみで成立します。

(2)寄託者及び受寄者による契約の解除権に関する規定を新設

現行民法の下では、寄託者が寄託物の引渡しをしなければ寄託契約は成立しないため、寄託物の引渡しまでに寄託の必要がなくなったときに寄託者が契約を解除するということは考えられませんでした。

改正民法では、寄託契約が諾成契約になったことにより、意思表示の合致があって寄託契約が成立した後、寄託物の引渡しを行う前に寄託者に寄託の必要がなくなるということが考えられます。

このような場合を考慮して、改正民法は寄託者による契約の解除を認める規定を置きました。

寄託者は寄託物の引渡しをするまで契約を解除することができ、受寄者がそれによって損害を受けた場合には寄託者に対して損害賠償請求をすることができます。

また、改正民法では、受寄者にも寄託物の引渡しを受けるまでの間の契約の解除を認めています。

ただし、受寄者による解除については一定の制限があります。

受寄者が解除できるのは、無報酬かつ書面によらない寄託の場合のみです。

報酬がある寄託または書面による寄託の場合、受寄者はこの規定による解除はできませんが、寄託物の引渡し日を過ぎても引渡しがなく、受寄者が催告をしても相当の期間内に引渡しがないときは債務不履行の規定にもとづいて解除することができます。

(3)再寄託に関する規定を変更

現行民法では、受寄者が寄託物を使用することは、寄託者の承諾を受けないかぎりできないと定められています。

寄託契約は寄託物の保管を依頼する契約であり、受寄者に寄託物を使用させる契約ではないため、勝手に使用することはできないということです。

他人に寄託物を保管させることも同様であり、寄託者の承諾を受けないかぎり受寄者は他人に寄託物を預けて代わりに保管してもらうことはできません。

寄託者は寄託物を保管してくれるなら誰でもよいというわけではなく、受寄者を信頼して寄託をしているはずだからです。

改正民法は、寄託物の使用に関する規定は変更しませんでした。

受寄者が寄託物を使用する場合は、これまでどおり寄託者の承諾を受ける必要があります。

他人に寄託物を保管させる再寄託に関する規定については、再寄託が可能な場合を追加しました。

寄託者の承諾を受けた場合の他、やむを得ない事由がある場合にも再寄託ができることとしました。

また、再寄託によって寄託物を保管することになった人は、寄託者に対して受寄者と同一の権利をもち、義務を負うという規定も置かれています。

(4)受寄者の通知義務に関する規定を追加

現行民法では、寄託物について他人(第三者)が権利を主張して訴えの提起や差押えなどの裁判所を通した手続をとったときは、受寄者はその旨を遅滞なく寄託者に通知しなければならないと定められていました。

しかし、通知をすることの他には、受寄者がするべきことについて定められていないため、より具体的な規定を置くことが求められていました。

改正民法は、寄託物について第三者が権利を主張している場合、受寄者は寄託者に寄託物を返還しなければならないと定めました。

寄託者の指図によらずに第三者に引き渡してはならないということです。

ただし、受寄者が寄託者に対して上記の通知をした場合に、寄託物を第三者に引き渡すことを命ずる確定判決があり、その第三者に寄託物を引き渡したときは、寄託者への返還義務はありません。

この場合に該当しないときは、寄託者の指図がないかぎり寄託者に返還しなければならないということですが、それによって第三者に損害が生じても、受寄者は第三者に対する損害賠償請求をする責任を負わないと規定されています。

契約書への影響

改正された民法に従って契約条項を変更すると、以下のようになるでしょう。

もちろん、これと異なる定めをすることも可能です。

(1)寄託契約が要物契約から諾成契約に変更されたことにより、寄託物の引渡しがあったことを契約書に記載する必要がなくなります。

変更例
変更前(契約の成立)
「寄託者は受寄者に対し、寄託者が所有する後記の物を寄託することを約し、受寄者は保管することを約してこれを受け取った。」

変更後(契約の成立)
「寄託者は受寄者に対し、寄託者が所有する後記の物を寄託することを約し、受寄者はこれを保管することを約した。」

寄託契約の成立後に寄託物の引渡しをすることになるため、契約書に引渡し日に関する規定を追加します。

変更例
新設(引渡し)
「寄託者は受寄者に対し、○年○月○日に本物件を引き渡す。」

(2)寄託契約の成立後、寄託物の引渡しがあるまでに寄託者や受寄者が契約を解除できるため、次のような規定を追加します。

寄託契約書を作成する場合は書面による寄託にあたるため、受寄者による解除には制限があります。

変更例
新設(引渡し前の解除)
「1 寄託者は、本契約の締結から本物件の引渡しまでの間、本契約を解除することができる。

2 受寄者は、寄託者が本物件の引渡し日を過ぎても引渡しをしない場合であって、受寄者が相当の期間を定めて催告をしても期間内に引渡しがないときは、本契約を解除することができる。」

(3)やむを得ない事由があれば寄託者の承諾がなくても再寄託ができるようになったため、再寄託に関する規定を変更します。

変更例
変更前(再寄託)
「受寄者は、寄託者の承諾があるときは、第三者に本物件を再寄託することができる。」

変更後(再寄託)
「受寄者は、寄託者の承諾があるとき、またはやむを得ない事由があるときは、第三者に本物件を再寄託することができる。」

(4)寄託物について第三者が権利を主張してきた場合の受寄者の通知義務に関する規定を変更します。

変更例
変更前(受寄者の通知義務)
「受寄者は、本物件について権利を主張する第三者が訴えを提起したこと、または本物件について差押え、仮差押えまたは仮処分をしたことを知ったときは、遅滞なく寄託者に通知するものとする。」

変更後(受寄者の通知及び返還義務)
「1 受寄者は、本物件について権利を主張する第三者が訴えを提起したこと、または本物件について差押え、仮差押えまたは仮処分をしたことを知ったときは、遅滞なく寄託者に通知するものとする。

2 前項の場合には、受寄者は寄託者の指図がないかぎり、寄託者に本物件を返還するものとする。

ただし、受寄者が寄託者に対して前項の通知をした場合に、本物件を第三者に引き渡すことを命ずる確定判決があり、その第三者に本物件を引き渡したときはこのかぎりでない。」

いつから適用になるか

改正民法は、2020年4月1日に施行されます。

この日を施行日といい、寄託契約を結んだ日と施行日を比べてどちらが早いかによって、現行民法と改正民法のどちらが適用されるかが異なります。

寄託契約を結んだ日が施行日よりも前である場合は現行民法が適用されます。

それに対して、寄託契約を結んだ日が施行日以後である場合は改正民法が適用されます。

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