税務調査の際、調査官は会社の貸借対照表や損益計算書について、どの程度チェックするものなのでしょうか?
【この記事の監修者】 讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
ある成人向けの玩具を販売している卸売業の話です。
”実質的な”経営者は法人税法に関する知識があったことから、もともと節税対策には熱心でした。
ここでは、”実質的な”というキーワードが重要です。
代表者の名義を別人にすることで、税務調査の時に多少は煙に巻くことができます。
じつは、これがもっとも税務調査がやりづらいパターンなのです。
なぜなら、調査官が本当に話を聞きたい相手である”実質的な経営者“を訊問できないからです。
そのような状況下で、今期は前期より売上高が伸びたため、会社は節税対策に追われました。
来期に向けて広告宣伝費を投入して、さらには海外への出張を前倒しで実行しました。
いろいろな努力の甲斐があって、利益を圧縮して節税に成功したのです。
しかし、貸借対照表に歪みが生じたために、この会社は税務調査のターゲットになってしまい、約1000万円の所得金額の申告漏れが指摘されてしまいました。
結果として、追徴課税を含めて約500万円の納付を余儀なくされたのです。
税務調査のターゲットになった理由は、調査官の一言がすべてを物語っています。
「前期より売上高が増えているのに利益が比例していません。
貸借対照表を見ると売掛金の残高が横ばいで不自然に思いました」
調査が終わった後に漏らしたセリフです。
税務調査は2日間行なわれました。
今になって振り返ると、事前通知の段階からいつもと様子が違っていました。
最初は調査官がひとりで税務調査を行なうと言っていたのに、前日に「もうひとり行く」と会社に伝えてきました。
調査官ひとりで十分な規模の卸売業にもかかわらずです。
しかし、税務署にとっては2人で調査したのは正解でした。
開始間もない段階で、代引きの売上高の計上漏れを見つけたのです。
それで、他にも何かあると判断したのでしょう。
2日間、調査官2人は昼食抜きで調べました。
すると、納品した商品を売上高に計上していないことが発覚します。
他にも発行した領収証から現金売上の計上漏れが発覚しました。
所得金額の圧縮に貢献したはずの経費も、本来は次期のものだと指摘されました。
勘定科目でいえば、前払金です。
①広告宣伝費
実際に広告したのは次期でした。
それを当期に支払っただけです。
②海外への出張費用
海外へ出張したのは次期であることが、パスポートから発覚しました。
旅行会社へ出張費用を当期に支払っただけです。
この会社の社長は、調査官が税務調査で間違いを指摘している時に、こう言われました。
「今回は勉強代と思ってください」
追加で納める税金、約500万円は授業料として安いと思いますか?
それとも高いと感じますか?
貸借対照表は損益計算書と連動している
では、税務調査のターゲットになったきっかけの「貸借対照表」とはどのようなものでしょうか?
結論から申し上げれば、「貸借対照表」は「損益計算書」と連動しています。
これは水道タンクに例えると、わかりやすいでしょう。
水道タンクの中は水が入れば増えて、消費されれば減ります。
それを貸借対照表と損益計算書に置き換えてみます。
貸借対照表は水道タンク、つまりストックです。
一方、損益計算書は水、つまりフローに相当します。
上記のように、売上高というフローの入りが増えれば、ストックである売掛金が比例しないと不自然なのは一目瞭然なのです。
それを裏づけるために、決算のときに「法人事業概況書」の提出が義務づけられています。
この書類には、回収サイトや支払サイトなどの情報を記載する欄が設けられているのが特徴です。
また、貸借対照表と損益計算書の主要な勘定科目の残高も記入します。
つまり、決算書・申告書でカバーしきれない分をフォローして、調査官が一目でわかりやすいようにしているのです。
税務署が貸借対照表を重視する理由とは?
会社の社長が考えている以上に税務署は貸借対照表を重視しています。
貸借対照表と損益計算書とは、水道タンクのように連動していることを熟知しているからです。
連動していることを実感していただくために、次のケースを例に説明します。