税金には納期限が定められており、期限までに完納しなければ滞納状態となります。
滞納期間が短ければペナルティとして課される延滞税はほとんど生じませんが、滞納状態が長引けば延滞税の額が大きくなるだけでなく、差し押さえによる滞納処分が実施されますので注意してください。
本記事では、日本における滞納現状と、財産差押えが実施されるまでの流れについて解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
滞納処分とは
滞納処分は、租税債権の強制的実現を図る手続きで、財産の差押えから交付要求、換価および配当等までの総称をいいます。
日本は納税者が自主的に税金を納める制度となっているため、納税者は定められた期限までに税金を納めなければなりません。
納期限を過ぎても納税者が任意に国税を完納しない場合、国税当局が滞納処分を実施します。
滞納処分の担当者は原則管轄税務署に所属する徴収部門の職員ですが、滞納額などによっては税務署職員の代わりに、国税局に所属する徴収職員が滞納処分を執行することもあります。
租税に関する滞納状況
国税庁が令和6年8月に公表した「令和5年度租税滞納状況の概要」によると、令和5年度の新規発生滞納額は7,997億円です。
滞納額が最も多い税目は消費税の4,383億円で、所得税は2,051億円、法人税は1,001億円です。
同年度の滞納整理済額は7,670億円であるため、令和5年度末に滞納整理中となっている額は前年度比327億円増の9,276億円に上ります。
新規発生滞納額は前年度よりも増加していますが、滞納が最も多かったバブル崩壊直後の平成4年の1兆8,903億円に比べると4割程度に落ち着いています。
滞納から財産差押えまでの流れ
税務署の職員が滞納による財産の差押えをするためには、一定の手続きを要するため、滞納した直後に財産を差し押さえられることはありません。
納税の督促
税務署は納税者が納期限までに税金を完納していないことを把握した場合、督促状による督促を行います。
督促は納付催告として行うものであり、差押えをするための前提要件にもなっていますので、財産の差押えよりも先に督促状が届きます。
納税者が督促状を受け取った場合、督促状または納付催告書を発した日から起算して10日を経過した日までに、督促に係る税金を完納しなければなりません。
督促を無視した場合には、税務署は差押えの前提要件を満たすことになるため、財産を差し押さえることが可能となります。
財産調査
税務署は差し押さえた財産を競売等で金銭に換価し、滞納額に充当することを目的に差押えをしますので、差押え前には財産調査を実施します。
財産調査は、差押えの対象となる財産の所有者や所在場所、金銭的価値などを調べるために行われます。
財産が差し押さえられたとしても、納税者が滞納している税金の支払いが完了すれば、財産が競売されることはありません。
しかし、財産差押後も納税者が税金を納めないときは、差し押さえた財産を競売により換価しますので、徴収部門の職員は換価しやすい財産を優先的に差し押さえます。
財産差押え
滞納処分による差押えは、滞納者の財産を法律上または事実上の処分を禁止し、税務署等が換価できる状態に置く強制的な処分をいいます。
差押えは強制処分なので、納税者の意思に関係なく実施され、財産差押えが行われた際は納税者に対して、差押調書謄本または差押書が交付または送達されます。
差押えの対象となる財産は、法施行地域内にある金銭的価値を有するもののうち、差押え時に納税者に帰属している財産です。
納税者が外国で所有している財産は差押えの対象にはなりませんが、財産が滞納者に帰属していれば名義や所持者は問いません。
差押えが解除されるケース
財産の差押えが解除されるケースには、「絶対解除」と「裁量解除」があります。
絶対解除
絶対解除は、差押えを解除しなければならない場合をいい、次のようなケースに該当したときは、差押えが解除されます。
<絶対解除に該当するケース>
- ・納付や還付金などの充当、更正の取消し等の理由により、差押国税の全額が消滅したとき
- ・差押財産の価額が、差押国税に優先する他の国税、地方税その他の債権の合計額を超える見込みがなくなったとき
- ・滞納処分の停止をしたとき