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過大支払利子税制の全体像:控除制限の仕組みと免除基準を解説

企業が支払う利子等が、所得水準に比して過大と判断された場合には、その一部が税務上の損金として認められないことがあります。

このような利子控除の制限を定めた制度が「過大支払利子税制」です。

本記事では、過大支払利子税制の仕組み、判定基準、控除限度額の算定方法、適用免除のルールについて、実務上の視点から解説します。

過大支払利子税制とは

過大支払利子税制とは、企業が支払う支払利子等のうち、調整所得金額の20%を超える部分を、当期の損金に算入しないこととする制度です。

企業が過度な支払利子を行うことで課税所得が不当に圧縮されることを防ぎ、国際的な課税ルールとの協調を図る重要な役割を担っています。

もともとは、国外の関連者への支払利子を通じた利益移転を防止する目的で導入されました。

しかし、現在の制度は国際的な租税回避への対応として、支払先が国内・国外、関連者・非関連者を問わず、より広範な利子支払いを対象としています。

出典:過大支払利子税制の概要(財務省)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/335.htm

過大支払利子税制における利子控除の制限内容

過大支払利子税制では、一定の基準を超える支払利子等について損金算入が制限されます。

控除制限の基本的な仕組み

過大支払利子税制では、企業が支払う利子等から受け取る利子等を控除した純支払利子等の額が、一定の限度額を超える場合、その超過部分は損金不算入となります。

対象となる利子等は、支払先が国内か国外か、関連者か第三者かを問いません

損金不算入限度額の算定方法

損金不算入限度額は、下記の算式で求めます。

この限度額を超える純支払利子等は、原則としてその事業年度の損金には算入できません。

<損金不算入限度額の算式>
対象純支払利子等の額 -(調整所得金額×20%)= 損金不算入限度額

対象純支払利子等の額とは、対象支払利子等の額の合計額から、これに対応する受取利子等の額の合計額を控除した残額をいいます。

また、対象支払利子等の額は、支払利子等の額から対象外支払利子等の額を除いた金額を指します。

控除対象受取利子等合計額の算定方法

控除対象受取利子等合計額は、次の算式で求めます。

<控除対象受取利子等合計額の算式>
法人が受ける受取利子等の額の合計額 ×(対象支払利子等合計額÷支払利子等の額の合計額)
= 控除対象受取利子等合計額

調整所得金額の算定方法

調整所得金額とは、法人税法上の所得金額に、対象純支払利子等の額や減価償却費などを加算するなど、一定の調整を加えた所得金額です。

この算定にあたっては、以下のような加算・減算項目が適用されます。

<調整所得金額の算式>
①所得金額+②加算する金額 - ③減算する金額 = 調整所得金額

①所得金額

青色欠損金の繰越控除など、一定の規定(※)を適用せず、かつ、寄附金の全額を損金の額に算入して計算した所得金額。
※措令第39条の13の2第1項において、適用しないこととされている規定

②加算する金額

  • 対象純支払利子等の額
  • 減価償却費の損金算入額
  • 貸倒損失の損金算入額
  • 匿名組合契約等に係る分配金の損金算入額

 
③減算する金額

  • 外国関係会社または外国関係法人に係る課税対象金額
  • 部分課税対象金額または金融子会社等部分課税対象金額等(※)
  • 匿名組合契約等に係る損失の益金算入額

※措法第66条の5の2第7項または同条第66条の5の3第2項の規定が適用される場合における、外国関係会社または外国関係法人に係るものに限る

超過利子額の繰越控除

過大支払利子税制によって損金不算入とされた金額(超過利子額)は、当期では損金に算入できませんが、翌事業年度から7年間にわたり繰り越すことができます

繰り越された金額は、将来の事業年度において、損金算入限度額から当期の対象純支払利子等の額を控除した残額の範囲内で、損金算入が可能です。

なお、令和4年4月1日から令和7年3月31日までの間に開始した事業年度の損金不算入額については、繰越期間が10年となります。

過大支払利子税制の適用免除基準

過大支払利子税制は、以下のいずれかの適用免除基準に該当する事業年度においては、制度の適用が免除されます。

<適用免除基準>

  • ① 対象純支払利子等の額が2,000万円以下である場合
  • ② 内国法人および、その内国法人との間に発行済株式等の50%超を直接または間接に保有するなどの関係がある一定の内国法人において、下記イの金額が、ロの金額の20%に相当する金額を超えないこと。

    イ:対象純支払利子等の合計額から、対象純受取利子等の額(控除対象受取利子等の合計額から対象支払利子等の合計額を控除した残額)の合計額を控除した残額

    ロ:調整所得金額の合計額から、調整損失金額(調整所得金額の計算においてゼロを下回る金額が算出される場合の、そのゼロを下回る金額)を控除した残額

実務上の対応と留意事項

過大支払利子税制に対応するためには、適用免除基準(対象純支払利子等の額が2,000万円以下)に該当するかを、毎期確認することが不可欠です。

適用対象となる場合は、支払利子等の範囲を正確に把握し、調整所得金額を適切に算定する必要があります。

また、損金不算入額が発生した場合には、繰越控除の適用を受けるために、翌年度以降7年間(令和7年3月31日までの間に開始した事業年度については10年間)の管理が求められます。

まとめ

過大支払利子税制は、企業の利子支払いに対する税務上の損金算入を制限する制度であり、支払先の相手を問わず広く適用される点が特徴です。

実務においては、適用免除基準の判定を行い、免除基準を満たさない場合には、控除限度額の算定や繰越控除制度を適切に理解することが求められます。

制度の適用有無を正確に見極め、継続的かつ適切に管理することが、税務リスクの未然防止と健全な企業運営につながります。

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