譲渡所得は、不動産や株式など金銭債権以外の財産を売却した際に対象となる所得区分ですが、資産を売却していない場合でも譲渡所得の課税対象となる、「みなし譲渡」規定が存在します。
みなし譲渡は時価よりも低い金額で譲渡した際にも対象となる可能性がありますので、本記事で該当する3つのケースをご確認ください。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
所得税のみなし譲渡とは
所得税のみなし譲渡は、譲渡所得の対象となる資産の移転があった際、その時点の時価で資産を譲渡したものとみなし、譲渡所得(山林所得、雑所得)を計算する規定(所得税法第59条)です。
譲渡所得の計算自体は通常の売買と同じですが、みなし譲渡は実際の売買金額ではなく、譲渡などが行われた時点の時価を収入金額として計算するのが特徴です。
所得税のみなし譲渡に該当する3つのケース
みなし譲渡は売買を行っていない場合でも、譲渡所得等の課税対象になることがありますのでご注意ください。
個人が法人に対して資産を贈与した場合
個人から個人に無償で不動産等を譲渡した場合には、贈与税の課税対象となり、財産を取得した受贈者が贈与税の申告手続きを行います。
そのため財産を譲渡した贈与者は、特に申告手続きをする必要はありません。
しかし受贈者が個人ではなく法人の場合、法人に贈与税は課されず、代わりに贈与者が時価相当額で譲渡したとみなして、譲渡所得の計算をしなければなりません。
譲渡所得の収入金額は贈与時点の時価をとし、収入金額から取得費を差し引いて譲渡益が発生するか確認します。
みなし譲渡の計算により譲渡益が発生した場合には、翌年2月16日から3月15日の確定申告期間に譲渡所得の申告・納税手続きが必要です。
個人が法人に資産を著しく低い金額で譲渡した場合
個人が法人へ資産を売却した場合でも、売却金額が時価よりも著しく低い金額(時価の2分の1未満)だった際は、売買時点の時価により譲渡資産を売却したとみなして、譲渡所得の計算をしなければなりません。
時価を譲渡所得の収入金額とする理由としては、低額譲渡を認めてしまうと同族会社などに対し、譲渡所得が発生しない金額で資産を売却することが可能となり、所得税の負担の軽減策が容易に行えるようになってしまいます。
そのため所得税法第59条では、時価の2分の1未満で法人に資産を譲渡した際は、時価で売却したとして譲渡所得を計算する規定が設けられています。
限定承認で遺産の相続手続きが行われた場合
「限定承認」とは、亡くなった人(被相続人)の正の財産を上限として負の財産を引き継ぐ制度です。
一般的な相続は「単純相続」といい、相続財産を取得する権利をすべて放棄する際は「相続放棄」の手続きを行います。
限定承認により相続する財産の中に譲渡資産が含まれている場合、被相続人が相続人に対して時価で譲渡したとみなして、譲渡所得の計算をしなければなりません。
被相続人は亡くなっているため、計算上の譲渡益が発生している場合には、相続開始日の翌日から4か月以内に準確定申告の手続きが必要です。
なお準確定申告により所得税の納税額が発生する場合、所得税は被相続人の負債です。
限定承認は正の財産を上限として負の財産を引き継ぐため、所得税を含めた負の財産の合計額が正の財産を超えている場合、譲渡所得税を納める必要はありません。
みなし譲渡で注意すべきポイント
1つの契約で2以上の資産を売却した際の低額譲渡の判定
法人に対して1つの契約で2つ以上の資産を売却した場合、契約で資産ごとに売却金額が設定されていたとしても、低額譲渡の判定は個々の資産で行うのではなく、合計金額で判定します。
資産Aと資産Bを1つの契約で取引した場合において、資産Aは時価の2分の1以上、資産Bは時価の2分の1未満だとしても、低額譲渡はABの合計額で判定することになります。
そのためトータルの売却金額が時価の2分の1未満であれば、資産Bだけでなく資産Aもみなし譲渡の対象となり、時価で譲渡所得の計算をしなければなりません。
個人への低額譲渡の赤字はなかったものとみなす
時価の2分の1未満で売却した際、時価で売却したとみなす規定は、法人に対してのみであり、個人間の売買では適用されません。
ただし個人間で時価の2分の1未満で売買した際に譲渡損失が発生した場合、損失はなかったものとして取り扱われます。
また個人間の低額譲渡は、時価と売却金額の差額が贈与税の課税対象となる可能性がありますのでご注意ください。