相続または遺贈により取得した財産を国等へ寄附した場合、相続税が非課税になる「国等に対して相続財産を贈与した場合等の相続税の非課税等(措法第70条)」を適用することができます。
本記事では、国等に相続財産を寄附した際の非課税特例の要件と、適用する際の注意点について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
国等に相続財産を寄附した際の非課税特例の概要
租税特別措置法第70条に規定される「国等に対して相続財産を贈与した場合等の相続税の非課税等」は、相続または遺贈により財産を取得した者が、相続税の申告書の提出期限までに取得した相続財産を国等に贈与(寄附)した場合、その贈与財産を相続税の計算から除く制度です。
被相続人が遺言で相続財産を直接国等に寄附する場合、寄附した財産に相続税は課されません。
一方、相続財産を取得した相続人等が相続・遺贈後に財産を寄附したときは、相続人が保有している財産を寄附した扱いになるため、相続して間もない段階で寄附を行ったとしても、原則相続税の課税対象となります。
しかし、寄附行為が本特例の適用要件を満たす場合には、相続人等が寄附した相続財産は相続税の非課税対象となることから、相続人が取得した相続財産を寄附する予定があるときは、本特例の適用を検討する必要があります。
非課税特例の適用要件
「国等に対して相続財産を贈与した場合等の相続税の非課税等」を適用できるのは、相続または遺贈により取得した財産を、相続税の申告書の提出期限までに寄附した場合です。
相続税の申告期限を過ぎてからの寄附は対象外となるため、申告手続きを踏まえると早期に寄附をすることが求められます。
特例対象財産は相続財産だけでなく、相続・遺贈で取得したとみなされる生命保険金や退職手当金も含まれます。
ただし、不動産等の相続財産を売却した代金を国等に寄附した場合、その金銭等は「相続または遺贈により取得した財産」には該当しません。
寄附先は、国・地方公共団体・一定の公益法人等に限定され、一般の法人への寄附は特例の対象外です。
「国」の範囲には政府の出資により設立された法人は含まれず、「地方公共団体」についても、地方公共団体の出資により設立された法人は地方公共団体には含まれません。
地方公共団体は、地方自治法第1条の3に規定する、都道府県・市町村・特別区・地方公共団体の組合・財産区をいいます。
また、公益法人等は対象法人が教育・科学の振興・文化の向上・社会福祉への貢献など、その他公益の増進に著しく寄与するものに該当する、「特定の公益法人」に該当する法人をいいます。
<特定の公益法人の範囲>
- ・独立行政法人
- ・国立大学法人
- ・大学共同利用機関法人
- ・地方独立行政法人
(地方独立行政法人法に掲げる一定の業務を主たる目的とするもの) - ・公立大学法人
- ・自動車安全運転センター
- ・日本司法支援センタ
- ・日本私立学校振興・共済事業団
- ・日本赤十字社
- ・公益社団法人
- ・公益財団法人
- ・私立学校法第3条に規定する学校法人で、学校(学校教育法第1条に規定する学校および幼保連携型認定こども園)の設置もしくは、学校および一定の専修学校の設置を主たる目的とするもの、または私立学校法第64条第4項の規定により設立された法人で専修学校の設置を主たる目的とするもの
- ・社会福祉法人
- ・更生保護法人
- ・認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)
非課税特例の申告手続き・添付書類
「国等に対して相続財産を贈与した場合等の相続税の非課税等」の特例は、期限内申告が条件です。
相続税の申告書に特例を適用する旨を記載し、一定の書類を添付した上で申告期限までに提出しなければなりません。
申告書に添付する「一定の書類」は、寄附先から次の事項が記載された書類をいいます。
- ・寄附を受けた旨
- ・寄附受けた年月日
- ・寄附を受けた財産の明細
- ・寄附を受けた財産の使用目的
なお、寄附を受けた法人が地方独立行政法人または学校法人に該当する場合には、特例の対象となる法人に該当することを証する書類として、地方独立行政法人法第6条第3項に規定する設立団体または、私立学校法第4条に規定する所轄庁が証明した書類が必要です。