会社が保有する権利の売買による、売上確保のための不正取引事例などがあれば教えてください。
【この記事の著者】 江黒公認会計士事務所 公認会計士 江黒 崇史
http://www.eguro-cpa.com/
不正の多くは、売上・利益を上げるために行われます。
特に上場企業では四半期ごとに決算発表があり、以前よりも経営者に対する業績への心理的圧力が高まっています。
普通の物品販売であれば期末に押し込み販売を行い、後日、返品を受け付けるような荒業も散見されます。
今回ご紹介するのは、ある東証マザーズ上場企業(以下、M社)の子会社で発生した、開発権という権利を不正に売買しようとした不正取引の事例です。
M社は、ゲノム診断と再生医療を主たる事業としており、子会社に動物を中心とした再生医療事業の会社(以下、A社)があります。
M社全体の売上・利益を計上するために、A社が保有する自動培養装置の開発権の売却取引が行われました。
流れとしては以下となります。
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●平成26年12月中旬
・A社はX社と自動培養装置の2億円の開発権売買取引の契約書を準備
※契約書に契約締結日から5年間に限りX社から開発権を買取できる条項あり
●平成26年12月25日
・X社の取締役会で開発権譲り受け取引否決
●同時期
・X社からA社へ否決の連絡
→A社は「決算の関係で、どうしてもX社との 譲渡契約の締結が必要であり、何とか契約締結してもらえないか」と打診
・X社の取締役会の理解のため、M社とX社でコンサル契約を締結し、M社からX社へ200万円の支払あり
●平成26年12月29日
・開発権譲渡契約締結
※開発関係資料が引き渡されたが決済
●平成27年1月5日
・M社で平成26年12月期に上記2億円の売上見込みのIR実施
●平成27年1月13日
・X社の取締役会で、M社との業務提携は承認されたものの資本提携及び開発権の譲り受けは再度否決
→M社は否決の連絡を受け、平成26年12月期の2億円の売上を確保するため新たな販売先を模索
→Y社を発見
●平成27年 1月30日
・A社、X社、Y社の3社で、X社の地位譲渡契約締結
→X社からA社へ開発資料一式が戻され、Y社に資料が引き渡された
※売上取り消しを回避するため新たな販契約ではなく、X社からY社へ地位の譲渡とした
●平成27年2月10日
・地位譲渡契約に基づき、Y社からA社へ2億円の支払が為された
※2月9日に追加覚書あり
「開発権についてY社購入から6ヵ月以内に開発進捗なければ、Y社は売却価格でA社へ買戻請求できる」
●平成27年6月
・Y社のビジネスで活かせなかったためA社へ買い取り請求あり
→A社は新たな譲渡先としてZ社に連絡
●平成27年8月7日
・A社、Y社、Z社で地位譲渡契約締結
→Z社からY社へ2億円の対価を9月末までに払う確約書締結
→A社、M社、M社役員数名、Y社、Z社で地位譲渡契約の覚書も締結
※上記覚書には、Z社のY社への2億円の支払義務についてA社が連帯して責任を負うと共にM社、M社役員
数名が連帯保証する旨あり
●平成27年9月30日
・Z社からY社への支払が為されず
※Y社からM社に対して2億円の支払催告あり
●平成28年5月
●平成28年5月11日
・上記事情が発覚、その後内部調査、訂正決算実施
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平成26年12月期の売上を確保するため、X社→Y社→Z社と開発権の売却先の地位の譲渡が為されましたが、そもそも