経営者主導ではなく現場主導で行なわれた不正会計の事例があれば教えてください。
【この記事の著者】 江黒公認会計士事務所 公認会計士 江黒 崇史
http://www.eguro-cpa.com/
不正会計では、さまざまな目的により不正計上が行なわれますが、多くの場合は経営者主導です。
ところが、今回ご紹介する不正会計事例では、経営者の主導ではなく工場長や生産管理課長などの間で実行されました。
不正実施会社は、乗用車や二輪車等の小型エンジンバルブや精密歯車等の製造販売を実施している会社です。
主として工場における利益の確保や月次の計画生産数を達成するために行なわれた不正会計の手口は次のようなものでした。
・仕掛品の一部を完成品として前倒し計上
・仕掛品または完成品の架空計上
・実地棚卸における棚札に虚偽の表示
・実地棚卸の集計用の棚札における数値の書き換え
いくつかある工場で、それぞれ不正が実行されたのですが、実行は工場長と生産管理課長との間で行なわれていました。
不正を実行した経緯としては、ある時期に特定顧客への製品で重大な品質問題が発生し、その影響で一部の製品の生産がひっ迫したことが発端でした。
当然、工場には計画生産数があります。
そこで、この問題発生の影響で計画未達成となることを報告せず、仕掛品状態のものを完成品として前倒し計上したのです。
この単純な操作を工場長と生産管理課長との間で決定していたため、品質管理課にも「完成品として計上した仕掛品リスト」を渡し、虚偽の完成品を管理していました。
工場では定期的に棚卸をして現物を数えて確認します。
主要な工場の棚卸には監査法人が同行することも多いです。
そのため、この実地棚卸において不正がばれないよう、工場長と生産管理課長は次のような徹底ぶりでした。
・完成品として前倒し計上した仕掛品は、一旦は仕掛品として棚札を発行
・集計用の棚札において仕掛品としての棚札を取り消し、完成品の棚札に交換
・完成品及び仕掛品の数と帳簿上の数が一致しない場合は、棚札を書き換えたり、新たに棚札を発行したりして架空の完成品及び仕掛品を計上
・使用した棚札は番号で管理されていたため、棚札を交換した際は当該管理簿も修正
さて、