自ら会社の売り手としてM&Aを選択する理由には、どのようなものがあるでしょうか?
また、その際どのようなポイントに注意するべきでしょうか?
【この記事の著者】 江黒公認会計士事務所 公認会計士 江黒 崇史
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売り手がM&Aを選択する理由には、不採算部門の売却目的や事業承継目的で自社を売却することなどがあります。また、注意するべきポイントとして、買い手側からの要求には誠実に対応しておくことが望まれます。
これまで、当コラムでは買い手側の視点から解説してきましたが、もちろん、M&Aは買い手ばかりのものではありません。経営判断として、自社が売り手となることもあるのです。
では、売却の大きな目的としては、どのようなものがあるのでしょうか?
以下のような理由や目的が売り手側としては挙げられます。
1.自社の事業が苦しい時に救済目的としての友好的売却
2.不採算部門を他社に売却することで自社の経営効率化を図る
3.事業承継目的としての売却
会社や事業を売却するというと、ネガティブな印象があるかもしれませんが、決してそんなことは有りません。
事業承継はもちろんのこと、自社だけでは経営が苦しいままでも第三者と組むことで劇的な復活ができるのであれば、M&Aは検討すべき戦略です。
さて、実際自社を売却するとなると、売り手としてはより高く売りたい、という気持ちが生じると思います。
しかし、会社には利害関係者(ステークホルダー)が多数いることを忘れてはいけません。
決して自己保身のためだけに売却を決めるのではなく、従業員やその家族、取引先の将来のことも考える必要があります。
また、買い手は既存の自社のビジネスを持続的に成長させてくれる相手先かどうか、金銭面だけではなく、価値観や気持ちの面でも視野を広く持って売却先を選択していきましょう。
実際に候補先が登場して交渉が始まった際には、きちんと自社の経営状況を隠さず、明らかにすることも大切です。
M&Aの現場では、買い手が売り手に対して詳細なDD(ビジネス、法務、財務会計等の調査:デューデリジェンス)を行います。
この時に、何か都合の悪いことを隠したり、見栄を張って自社を大きく見せようとしても、買い手側はDDを通して必ず矛盾点などに気づきます。
場合によっては売り手側に対して不信感が芽生えてしまい、取引(ディール)そのものが不成立になってしまうこともあります。
そのため、買い手側のDDで求められる資料はきちんと提出し、質問にも誠意をもって答える姿勢が必要です。
また、これまでのビジネス経験で感じている潜在的リスクや弱みも買い手側に提供し、