労働基準法第24条において、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。」と規定されています。
これを、賃金支払い5原則といいます。
このように賃金は本来通貨で支払わなければなりませんが、労働基準法施行規則第7条の2において、労働者の同意を得た場合には、当該労働者の指定する銀行やその他の金融機関への振込により賃金を支払うことも例外的に認められているのです。
しかし、通貨による支払いは労使双方にとっての利便性を欠くため、給与などの賃金の支払いは、ほとんどが銀行やその他の金融機関口座への振込により行われています。
一方、今やコンビニやスーパー、その他のお店などでは、スマートフォンのキャッシュレス決済アプリや電子マネーを利用して買い物をすることが当たり前となってきています。
ところが日本のキャッシュレス決済比率は諸外国と比較して低く、遅れを取っているため、政府はデジタル給与による支払いを解禁することにより、キャッシュレス化のスピードを加速させたいという考えがあるものと思われます。
デジタル給与の支払いとは、給与を金融機関の口座を通さずに、直接スマートフォン決済アプリや電子マネーなどのサービスに送金する方法で2023年4月から解禁されます。
今回は、労働基準法第24条の賃金支払い5原則の詳細と、2023年4月解禁のデジタル給与の支払いについて見ていきます。
【この記事の著者】
定政社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士 定政 晃弘
賃金支払い5原則
給与の支払いは、労働基準法第24条に規定された「賃金支払い5原則」に基づいて行わなければなりません。
賃金支払い5原則とは、以下をいいます。
・通貨払いの原則
・直接払いの原則
・全額払いの原則
・毎月払いの原則
・一定期日払いの原則
それぞれの原則について、詳しく見ていくことにします。
通貨払いの原則
賃金は通貨で支払わなければならないという規定があり、
ここでいう通貨とは、日本で強制通用力を持つ貨幣や、日本銀行券のことです。
そのため、賃金の支払い相手が外国人労働者であり、本人が希望したとしても、ドルやユーロのような外国通貨で支払うことはできません。
また、通貨の代わりに、商品券や自社製品などの現物で支払うこともできません。
なぜならば、現物はその物の価値を正当に評価することが困難な場合があり、その結果、労働者が不利益を被る可能性もあるからです。
ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合は、現物給与も認められます。
労働者の個別の同意を得られるのであれば通貨ではなく、、労働者が指定する金融機関の預貯金口座へ振り込むことができます。
この場合、所定の給与支払日には賃金の全額を引き出すことが可能という形しておかなければなりません。
賃金には給与の他にも賞与等があり、いずれも通貨払いの原則が適用されますが、退職手当については、労働者の同意が得られれば、銀行振出小切手、銀行支払保証小切手、郵便為替により支払うことができます。
直接払いの原則
賃金は直接労働者に支払わなければなりません。
これは第三者による賃金の不当な中間搾取を禁じることで、労務の提供を実際に行った労働者本人に賃金全額を帰属させることを目的としており、労働者の親権者や法定代理人等にも支払うことができません。
ただし、病気や入院などで労働者本人が直接賃金を受け取れない場合は、家族などの「使者」に賃金を支払うことができます。
使者であるかどうかの判断は、実際難しい場合もありますが、社会通念上、本人に支払うのと同一の効果を生ずるような人であるかどうかで判断することになります。
この場合、あくまで使者として受け取ることはできるのであって、意思決定が可能である代理人としての受け取りはできません。
また、国税徴収法や民事執行法に基づき賃金が差し押さえられた場合には、債権者に直接支払うことが例外的に認められています。
全額払いの原則
賃金は原則としてその全額を支払わなければなりません。
賃金の分割払いや、賃金の一部を支払留保することを禁止し、労働の対価を全額労働者に帰属させることで生活の安定をはかるためです。
また、労働者の賃金債権と、事業主が保有する労働者に対する債権とを、一方的に相殺することも禁止されています。
ただし、法令に別段の定めがある場合や、賃金控除に関する労使協定が締結されている場合には、全額払いの原則の例外として賃金の一部を控除することが認められています。
「法令に別段の定めがある場合」とは、所得税や社会保険料、労働保険料などを指しています。
「賃金控除に関する労使協定」に該当するものとしては社宅料、財形貯蓄金、組合費、物品の購入代金などが挙げられます。ただし、事理明白なものについてのみ控除が認められることになります。
毎月払いの原則
賃金は毎月1回以上支払わなくてはなりません。
例えば、「給与は3か月に1回支払う」という規定が認められてしまうと、賃金支払期の間隔が開き過ぎてしまい、労働者の生活上、困難が生じる可能性があります。毎月1回とすることでその不安を取り除くことができるのです。
ただし、例外として、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金については毎月1回以上の支払いは必要ありません。
一定期日払いの原則
賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません。
毎月支払いはされるものの、「今月は1日払い、翌月は25日払い」のように支払日が決まっていなくて、支払日の間隔が一定しないと、労働者は計画的な生活を送ることができません。
そのため給与の支払日を毎月10日とか毎月25日、あるいは毎月末日などと決めなければならないのです。
したがって、給与の支払日が毎月第4月曜日とか、毎月20日~30日の間などとすることは、一定期日払いの原則違反となります。
一定期日払いの原則にも例外があり、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金については一定期日に支払う必要はありません。