医療法人の出資と非上場(未公開)株式の評価方法は、基本的な部分では同じです。
しかし医療法人は配当が禁止されているなど、株式会社とは法人の性質が異なるため、評価の仕方が違う部分もあります。
本記事では、医療法人の出資を評価する際、非上場株式と評価方法が異なる点について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
医療法人の出資の評価方法が非上場株式とは異なる理由
医療法人は、以下の事項が株式会社と異なります。
● 剰余金の配当が禁止されている
● 社員に出資の義務はない
● 出資を有する社員と出資を有しない社員の併存が認められている
● 各社員の議決権が平等であり、出資と議決権が結びついていない
● 剰余金の配当が禁止されている
● 社員に出資の義務はない
● 出資を有する社員と出資を有しない社員の併存が認められている
● 各社員の議決権が平等であり、出資と議決権が結びついていない
非上場株式を評価する場合、原則的評価方式と特例的評価方式(配当還元方式)の2種類あります。
株式の保有割合が少ない場合、会社の経営に携わることが難しいため、配当を期待する権利が株式の主な価値となることから、配当還元方式により株価を算出します。
それに対し医療法人は、剰余金の配当が禁止されていますので、配当還元方式を用いることはなく、持分の定めのある医療法人の出資者は、すべて原則的評価方式により評価しなければなりません。
また株式会社は株式数に応じて議決権が与えられるのが一般的ですが、医療法人は社員1人対して議決権が1票与えられています。
そのため票数が出資額に左右されないことから、医療法人は社員の所有する議決権割合を判定する必要がありません。
類似業種比準方式による出資の評価
医療法人の出資を類似業種比準方式で評価する場合、次の点にご注意ください。
● 会社の業種区分の判定
● 業種番号
● 類似業種比準方式の計算
● 会社の業種区分の判定
● 業種番号
● 類似業種比準方式の計算
会社の業種区分の判定
医療法人を評価する場合も非上場株式評価と同様、会社規模の判定を行う必要があり、業種区分の判定は、日本標準産業分類に従って行います。
病院については「サービス業」の一種として考えられることから、日本標準産業分類の「小売・サービス業」に該当するものとして取り扱います。
業種番号
類似業種比準方式では、類似業種の利益金額等を用いますので、該当する業種目を特定する必要があります。
医療法人は「業種目別株価等一覧」で適切な類似業種がないため、「その他の産業」を業種目として計算します。
(令和3年9・10月分の業種目別株価等一覧における「その他産業」の番号は『113』です。)
なお業種目は通常「大分類」・「中分類」・「小分類」に区分されていますが、「その他の産業」は大分類のみです。
類似業種比準方式の計算
株式を類似業種比準方式で計算する場合、「配当金額」・「利益金額」・「純資産価額」の3要素を類似業種と比準させて評価します。
しかし医療法人は剰余金の配当が禁止されている関係上、比準3要素のうち「配当金額」の要素を除外して計算しなければなりません。
A×{(C÷Ⓒ+D÷Ⓓ)÷2}×斟酌率(※)
A :類似業種「その他の産業」の株価
C :医療法人の1株当たりの年利益金額
Ⓒ:類似業種の1株当たりの年利益金額
D :医療法人の1株当たりの純資産価額
Ⓓ:類似業種の1株当たりの純資産価額
※:大会社に相当する医療法人については「0.7」
:中会社に相当する医療法人については「0.6」
:小会社に相当する医療法人については「0.5」
A×{(C÷Ⓒ+D÷Ⓓ)÷2}×斟酌率(※)
A :類似業種「その他の産業」の株価
C :医療法人の1株当たりの年利益金額
Ⓒ:類似業種の1株当たりの年利益金額
D :医療法人の1株当たりの純資産価額
Ⓓ:類似業種の1株当たりの純資産価額
※:大会社に相当する医療法人については「0.7」
:中会社に相当する医療法人については「0.6」
:小会社に相当する医療法人については「0.5」
純資産価額方式
医療法人の出資を純資産価額方式により計算する場合、次の2点が非上場株式を評価する場合と異なります。
● 純資産価額の80%評価
● 営業権
● 純資産価額の80%評価
● 営業権
純資産価額の80%評価は適用されない
非上場株式を評価する際の純資産価額は、株式の所有者とその同族関係者の有する株式にかかる議決権の合計が評価会社の議決権総数の50%以下である場合、純資産価額の80%により評価することが可能です。
しかし医療法人は各社員の議決権が平等であることから、議決権の判定を行わないため、医療法人の出資を評価する際、純資産価額の80%評価を適用することはありません。
営業権の扱い
営業権とは、「のれん」などと呼ばれる、企業財産の一種です。
営業権自体は法律で認められた権利ではありませんが、会社が長期間にわたって収益を上げるために重要な資産であるため、相続税の評価対象です。
非上場株式を評価する際は営業権の価値も算出することになりますが、医療法人の出資を純資産価額方式により計算する場合には、営業権を評価する必要がありません。
医療法人としての価値は、勤務している医師の技術、手腕または才能等によることが大きく、医療法人から医師がいなくなった場合、価値は消滅することも考えられます。
また個人開業医の相続の際は、当人の技術、手腕又は才能等を主とする事業に係る営業権で、その事業者の死亡と共に消滅するものは評価しないとしています。
したがって医療法人の出資の計算においては、個人開業医に準じて、あえて営業権の評価をしなくても差し支えありません。