立体買換特例は譲渡所得の特例制度の一つであり、要件を満たせば譲渡所得を100%繰り延べることが可能です。
本記事では、租税特別措置法第37条の5に規定される立体買換特例の概要と、適用する際の注意点について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
立体買換特例(措法37条の5)の概要
「既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例」(通称:立体買換特例)は、譲渡所得の繰延制度です。
既成市街地等内の区域にある土地建物等を、その土地等の上に地上階数3以上の中高層の耐火共同住宅の建築をする事業の用に供するために譲渡し、買換え資産として同住宅を取得した場合に適用できます。
譲渡所得の事業用の買換特例として「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」(措法第37条)もありますが、こちらの特例は適用したとしても譲渡所得の20%(原則)は課税対象となってしまいます。
それに対し立体買換特例は、買換資産の価額が譲渡資産以上であれば譲渡所得は生じないため、譲渡時の税負担をより抑えられるのが特徴です。
<立体買換特例の計算式>
A:譲渡資産の収入金額
B:譲渡資産の取得費・譲渡費用
C:買換資産の取得価額
D:譲渡所得金額
区分:A<C
譲渡所得金額(D)の計算:譲渡所得は発生しない
区分:A=C
譲渡所得金額(D)の計算:譲渡所得は発生しない
区分:A>C
譲渡所得金額(D)の計算:(A-C)-B×(A-C)÷A=D
立体買換特例の適用要件のポイント
立体買換特例の適用要件は、譲渡資産と買換資産の組み合わせと、買換資産の取得時期がポイントになります。
特例対象となる譲渡資産・買換資産
立体買換特例は、譲渡資産の種類に応じて、取得する買換資産の種類が指定されており、代表的な買換えは以下の通りです。
<代表的な譲渡資産と買換資産の範囲>
(地上階数3以上の中高層の耐火共同住宅の建築をする事業用に供するための譲渡)
買換資産:譲渡資産の土地等の上に建築された耐火共同住宅(当該耐火共同住宅の敷地の用に供されている土地等を含む)または、当該耐火共同住宅に係る構築物
譲渡資産と対になる買換資産を取得しなければいけませんが、譲渡資産と買換資産の用途が同一でなくても特例が適用できるケースもあります。
上記の買換えの場合、譲渡資産を売却した後の用途に条件がある一方で、譲渡する前の用途に条件はありません。
そのため、個人が空閑地や事業用の土地を譲渡し、取得した買換資産を居住用として利用する場合でも、立体買換特例は適用可能です。
買換資産の取得時期
立体買換特例の買換資産は、譲渡日の属する年の12月31日までに取得し、取得日から1年以内に自己の事業の用又は居住の用に供しなければなりません。
譲渡してから買換資産の取得・利用開始までの猶予期間は短いですが、一定の事情がある場合には、譲渡した年の翌年12月31日以後2年以内で税務署長が認定した日まで、買換資産の取得期間を延長することができます。
・買換資産である中高層耐火建築物の建築に要する期間が通常1年を超えると認められる事業
・上記に準ずるやむを得ない事情がある
取得期間の延長は申請制となっているため、申請手続きを怠ると延長が認められず、特例が適用できなくなります。
したがって、買換資産の取得が間に合わないときは、次の事項を「やむを得ない事情がある場合の買換資産の取得期限承認申請書」に記載し、税務署へ提出してください。
・申請者の氏名・住所
・譲渡資産の明細
・買換資産の明細
・やむを得ない事業の詳細
・中高層の耐火建築物の全部または一部を取得することができると見込まれる年月日および、取得期限として認定を受けようとする年月日
・その他参考となるべき事項
立体買換特例を適用する際の適用する際の注意点
立体買換特例は、譲渡した土地等の上にマンションを建築する関係上、譲渡所得の申告時点において買換資産が完成していないこともあります。
また、特例を適用した場合、買換資産の取得価額は実際の取得価額とは変わる点にも注意が必要です。
申告時点で買換資産が取得予定の場合
買換資産が取得予定の場合は、取得価額の見積額で計算して申告することになります。
特例を適用できなくなった場合や、実際の取得価額が取得価額の見積額より小さい場合には、買換資産の取得期限または事業用に供さなくなった日から4か月以内に修正申告書の提出が必要です。
一方、実際の買換資産の取得価額が取得価額の見積額よりも大きい場合は、買換資産を取得した日から4か月以内に更正の請求書を提出してください。