顧問税理士を代えると税務調査の対象になりやすいという話を聞くことがありますが本当でしょうか?
本当なら、その理由は何なのでしょうか?
【この記事の監修者】税理士法人桜頼パートナーズ会計 小髙事務所 小髙 正之
「顧問税理士を代えると税務調査が来る」という噂があります。
そのため、不満のある会計事務所と我慢してつき合っている経営者もいるかもしれません。
確かに、解約された税理士が税務署に密告する事実は否定できません。
税務調査の際の雑談で、「ガセネタが多い」と調査官が税理士に愚痴をこぼすことがあるくらいです。
会社の内部事情を知る人物の言うことには信憑性があります。
たとえば、売上金額の隠蔽では、ガセネタは単に「〇〇社が脱税をしている」という表現であるのに対して、内部事情を知っている人物の情報は、具体的な「売上日、金額、取引先」などが明確になっています。
調査官としては、真実かどうかよりも密告の裏がとれるかどうかが重要になってきます。
では、会社としては税金を誤魔化してさえいなければ税務調査のリスクは回避できるのでしょうか?
じつは普通に経営していても、顧問税理士の解約を機に税務署のターゲットになることはあります。
そこには、密告よりも高い確率でターゲットになる理由があるのです。
一体、どういうことでしょうか?
税務調査のターゲットはコンピュータが決めている!?
話の核心入る前に、税務署の内部事情を説明する必要があります。
これこそが、税務調査の対象を選定する基準と密接に関係あるからです。
押さえて置きたいポイントは2つあります。
①税務職員の人員が年々減少していること
ある税務署では、約10年間で法人課税部門が11部門から9部門に減らされました。
②国税総合管理(KSK)システムが機能していること
特に電子申告の普及で、納税者の情報を簡単にデータベース化することが可能になりました。
つまり、税務調査のターゲットを選定するのは、税務署員の目視ではなくコンピュータが決めているということです。
会計処理が変わると税務調査のターゲットになる
顧問税理士が代わると、会計処理も違ってくることがあります。
たとえば、通勤手当の勘定科目について、旅費交通費としている税理士がいる一方、福利厚生費で人件費としてカウントしている税理士もいます。
このような違いが出てくるのは、勘定科目の選択は法律で定められているわけではなく、常識の範囲内で自由に決められることが背景にあるからです。
次に、実際にあった事例から考えてみます。
ある会社が、顧問税理士を代えて会計処理を変更したことが原因で税務調査のターゲットになりました。
普段、現場に来ないはずの統括官(各課税部門のトップ)とナンバー2の上席が2人で担当しました。
具体的に勘定科目を変更したのは、会社が契約した社宅家賃の自己負担分でした。
「支払い方法」
会社が社宅家賃を大家に10万円支払い、自己負担分の5万円を給与から天引きする。
「会計処理」
①以前の顧問税理士の場合
社宅家賃の支払金額と自己負担分を両建て表示しました。
(支払金額10万円と自己負担分5万円を相殺しています)
勘定科目の金額は次のとおりです。
・地代家賃/10万円
・雑収入/5万円
②新しい顧問税理士の場合
社宅家賃の会社負担分を純額で表示しました。
勘定科目の金額は次のとおりです。
・地代家賃/5万円
両者の会計処理の違いは、①がお金の流れを示したのに対して、②は会社が実際に負担した金額を表示しています。
この場合、税務署に「この会社には何かある」と疑われても仕方がありません。
同じ事業を営んでいるのに、毎月定額の地代家賃が変動するのは考えられないからです。
このケースでは、税務調査の初日に、地代家賃の金額の差異が会計処理の違いであることを説明して、誤解を解きました。
このように、会計処理が常識の範囲内で自由といっても、コンピュータの網にかかれば税務調査のターゲットになってしまうので注意が必要です。
会計処理を変更した後のフォローが税務署の誤解を解く
だからといって、会計処理を変更することがいけないわけではありません。
むしろ、必要なケースさえあります。
上記の場合は、地代家賃5万円と純額で表示したほうが金融機関から融資を引き出すのに有利です。
重要なポイントは、税務署に誤解を与えないように配慮することです。
具体的には、