脱税事件が後を絶ちません。
社長が売上金額の一部を申告しないケースについて、その手口や心理、また税務調査における税務署の対応などについて教えてください。
【この記事の監修者】 讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
映画『マルサの女』(1987年公開)をご存知でしょうか?
伊丹十三監督、宮本信子主演の名作です。
マルサ(国税局査察部)に配属される前、主人公の税務職員時代にこんなシーンがありました。
主人公がパチンコ店に税務調査を行なった際、社長が売上金額の一部を申告せずに、社長個人の財布に入れていたのを発見するというものです。
これは古典的な脱税手法です。
まず、主人公が内定調査を行ない、マーカーで印を付けた1万円札を使ってパチンコ玉を購入します(現在と違ってプリペイドガードを導入する前の話です)。
その後、税務調査で売上金額を確認して、上記の1万円札がないことから、脱税が発覚しました。
パチンコ店の脱税手法が映画で描かれるほどですから、当時はよくある話だったのではないのでしょうか。
現在は、このような脱税を防止するためにプリペイドガード方式が導入されています。
要は入金の記録を残しているのです。
売上金の一部を個人口座へ逃がした脱税が簡単に発覚した事例
脱税は、すぐに発覚するものです。
ところが、売上金額を社長の個人名義の口座へ振り込んで、会社の所得金額から一部除外するというケースは後を絶ちません。
ある会計事務所の担当者は、顧問先企業からチャットワーク(クラウド上でメーリングリストのようにやりとりのできるツール。グループ内のメンバーのメッセージを時系列に見ることができる)で、次のような明確な脱税の意思表示を受けたことがあったと言っていました。
「かねてよりの指示どおり、得意先〇〇社からの入金は売上に計上しないで下さい」
また以前、ある印刷会社で売上金額の一部除外が発覚したケースがありました。
その結果、この会社は過去7年間の法人税・事業税・住民税・消費税を追徴課税されてしまいました。
本税と重加算税などを合わせて1000万円を超えたため、社長は金融機関から融資を受け、その資金で税務署へ納付したのでした。
この脱税が発覚するまでのプロセスは異様でした。
そのため、税務調査をするまでもなく発覚したのです。
税務署は、調査権限を行使して金融機関にあった社長個人の口座を調べました。
そこで、税務署から顧問をしている会計事務所へ連絡が入ったのです。
電話をしてきたのは法人課税部門のトップである統括官。
通常は、ナンバー2である上席以下の役職の人間が連絡するはずなのにです。
しかも、統括官は所長税理士を呼びつけるような口調でした。
さらに、抜き打ちで調査官がその会社を訪問しました。
事前通知を行なうことが原則ですが、その常識をあえて守りませんでした。
売上金額の一部除外をしていることに確証があったからなのでしょう。
脱税に対する税務署の厳しいスタンスが、はっきりと現れたケースでした。
税務調査に対する無知が古典的な脱税を誘発する
すぐに脱税が発覚するにもかかわらず、社長が個人の口座に売上金額をプールして、税務署に申告しないのはなぜでしょうか。
その理由は2つ考えられます。
1.除外した売上代金を裏金にするため
手口(スキーム)としては、社長個人の口座に振り込んだ資金を会社に貸し付けた、という形にして偽装します。
たとえば、