事業年度に赤字が発生した場合、欠損金繰越控除制度を活用することで、欠損金額を翌事業年度以降の利益と相殺することができます。
本記事では、法人税の欠損金繰越控除制度の適用要件と、制度を利用する際の注意事項について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
欠損金繰越控除制度の概要
欠損金繰越控除制度は、各事業年度の法人税負担の平準化を図るために、事業年度に発生した損失を翌事業年度以降に繰り越し、翌事業年度以降の利益から控除することができる制度です。
法人税は利益に対して課される税金なので、損失が発生した際に法人税を課されることはありませんが、欠損金繰越控除制度を活用すれば、事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度に生じた欠損金額を損金に算入することができます。
損金に算入できる額は、中小法人等であれば所得の全額、それ以外の法人等については当期の所得金額の50%(開始事業年度が平成30年4月1日以降の場合)が限度です。
ただ中小法人等に該当しない法人についても、再建中の法人や新設法人など、一定の要件を満たすときは一定期間所得の全額を損金に算入することが可能です。
繰越欠損金が複数の事業年度で生じている場合には、最も古い事業年度において発生しているものから損金算入を行います。
現在の欠損金の繰越期間は10年ですが、平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額の繰越期間は9年と、1年短いのでご注意ください。
法人税の欠損金繰越控除制度の適用要件
法人税の欠損金繰越控除制度は、欠損金額が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出し、その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出していることを要件としています。
欠損金額が生じた事業年度の確定申告書が白色申告の場合、その事業年度に発生した欠損金を繰り越すことはできません。
しかし、欠損金額が生じた事業年度に青色申告書を提出して欠損金を繰り越したときは、その後の事業年度について提出した確定申告書が白色申告であったとしても、欠損金を控除することができます。
欠損金繰越控除制度と欠損金繰戻還付制度の併用適用は不可
法人税には、欠損金を前事業年度の所得に繰戻し、還付を受ける「欠損金繰戻還付制度」が存在します。
欠損金繰越控除と欠損金繰戻還付は併用して適用することができませんので、欠損金の繰戻しにより還付を受けた場合、その計算の基礎となった欠損金額は欠損金繰越控除の対象から除かれます。
法人税の欠損金繰越控除制度を適用する際の注意点
法人税の繰越控除は個人と違い、全額を控除対象にできないケースがあり、税務調査の対象期間は通常よりも長いです。
中小法人等に該当しない法人は控除限度額が設けられている
中小法人等に該当する法人は、繰越欠損金の全額を控除対象にできますが、中小法人等に該当しない場合、損金算入できる額には上限が設けられています。
控除限度額は、繰越控除をする事業年度のその繰越控除前の所得の金額に対し、下記の割合を乗じて算出します。
<中小法人等以外の法人が控除できる欠損金の額>
欠損金が発生した事業年度(開始事業年度)
・平成24年4月1日から平成27年3月31日・・・(控除限度額の割合)100分の80
・平成27年4月1日から平成28年3月31日・・・(控除限度額の割合)100分の65
・平成28年4月1日から平成29年3月31日・・・(控除限度額の割合)100分の60
・平成29年4月1日から平成30年3月31日・・・(控除限度額の割合)100分の55
・平成30年4月1日から・・・(控除限度額の割合)100分の50
「中小法人等」とは、投資法人や特定目的会社および受託法人を除く普通法人のうち、資本金の額(出資金の額)が1億円以下であるもの(100%子法人等を除く)または、資本(出資)を有しないもの、公益法人等、協同組合等、人格のない社団等です。
「100%子法人等」に該当する法人は、資本金の額(出資金の額)が5億円以上の法人または、相互会社等による完全支配関係がある普通法人、完全支配関係がある複数の大法人に発行済株式等の全部を保有されている普通法人をいいます。