企業は債権が回収できなくなることを想定して貸倒引当金を設定しますが、一定の要件をクリアすれば、貸倒引当金を損金として算入することができます。
ただし、損金算入できる額には上限があり、債権の種類によって限度額の計算方法が変わりますので、今回は税務上の貸倒引当金の取扱いについて解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
貸倒引当金の定義
貸倒引当金は、将来回収できない金銭債権が発生することに備えて設定する勘定科目です。
回収不能の可能性がある売掛金や貸付金などの金銭債権は、回収不能となることが確定していなくても、一定の計算方法に基づいて算出した貸倒引当金を計上することができます。
貸倒引当金に関連する勘定科目として「貸倒損失」がありますが、貸倒損失は債権が回収不能になった際に用いる勘定科目です。
税務上における貸倒引当金と繰入れが認められる法人の範囲
税務上の貸倒引当金は、金銭債権について将来発生することが予測される貸倒れの損失見込額について、損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた場合、一定額まで損金に算入することができます。
貸倒引当金は実際に支出が伴うものではありませんが、損金に含めることができるため、要件を満たせば支出を増やさずに節税効果が得られます。
貸倒引当金を繰り入れることができる法人は、各事業年度終了時において下記に該当する法人に限られます。
- ・資本金の額が1億円以下の普通法人(投資法人、特定目的会社を除く)
- ・公益法人等または協同組合等
- ・人格のない社団等
- ・銀行、保険会社その他これらに準ずる法人
- ・上記に該当しない、金融に関する取引に係る金銭債権を有する一定の法人
(対象となる金銭債権に制限あり)
以前は中小企業だけでなく、大企業も貸倒引当金の損金算入ができましたが、税制改正により現在は対象から外れています。
また、資本金の額が1億円以下の普通法人であったとしても、資本金の額が5億円以上の大法人との間に完全支配関係がある普通法人は適用対象外です。
個別評価金銭債権と一括評価金銭債権の違い
貸倒引当金の繰入限度額は、個別評価金銭債権と一括評価金銭債権に区分して計算することになります。
個別評価金銭債権は回収困難な不良債権に該当するものが対象で、不良債権に該当しない債権が一括評価金銭債権となります。
個別評価金銭債権と一括評価金銭債権では、貸倒引当金の繰入限度額が異なり、個別評価金銭債権は不良債権であることから、債務者ごとに繰り入れる金額を計算しなければなりません。
一括評価金銭債権に該当する債権は、基本的に期限を迎えれば債権を回収することができますが、取引先の倒産等で回収できなくなるリスクに備え、一定額まで貸倒引当金を繰り入れることが認められます。
個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象範囲
個別評価金銭債権に該当する債権は、「法律基準による債権」・「実質基準による債権」・「形式基準による債権」の3種類です。
法律基準による債権(長期棚上げ債権)は、特定の事由によって長期的に債権の回収が見込めない場合や、弁済が猶予されるような状態となっている金銭債権をいいます。
特定の事由とは、更生計画認可の決定や再生計画認可の決定、特別清算に係る協議の許可の決定などがあります。
実質基準による債権は、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その債務者が営む事業が好転する見通しがないこと、災害や経済事情の急変等で多大な損害が生じたなどの事由で債権回収が不能となった債権です。
相当期間はおおむね1年以上をいい、債務超過に至った事情と事業好転の見通しを勘案して事由の発生を判断することになります。
形式基準による債権は、金銭債権の債務者が会社更生法の規定による更生手続きの開始の申し立てや、破産法の規定による破産手続き開始の申し立て等の事実が生じた債権です。
なお、個別評価金銭債権に該当する金銭債権でも、該当する基準によって貸倒引当金として計上できる額が異なる点には注意してください。