企業活動における支出のうち、将来に対応する費用は、会計・税務の観点から適正に処理することが求められます。
「前払費用」と「繰延資産」は混同されやすく、処理を誤ると損益への影響のみならず、税務上のリスクを招く可能性があるため、注意が必要です。
「本記事では、前払費用および繰延資産の定義、会計処理、税務対応に加え、税務調査での指摘ポイントまでを体系的に解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
前払費用とは?定義と処理の考え方
前払費用とは、まだ提供を受けていない商品やサービスの対価として、事前に支払った費用をいいます。
会計処理における前払費用の基本と注意点
前払費用に該当するものとしては、翌月分の家賃や保険料を先に支払うケースなどが挙げられます。
支出でありつつも、サービスの提供を受けるまでの間は資産として計上し、提供が開始された期に費用処理を行うことが求められます。
したがって、支払日と提供期間が一致していない場合には、当期の費用が過大または過少となるおそれがあるため、契約期間や請求内容との整合性の確認が不可欠です。
また、期末に前払費用が残っている場合は、貸借対照表上で適切に表示する必要があります。
税務上の「短期前払費用」の扱い
法人税法では、一定の要件を満たす前払費用について、支払時に損金算入を認める「短期前払費用」の規定が存在します。
次の要件を満たせば、前払費用に該当する場合でも、その支払時点で損金の額に算入することが認められるため、税負担および事務作業の軽減効果が期待できます。
<短期前払費用の適用要件>
- ・契約に基づき継続的に提供される同一サービスであること
- ・支払が完了していること
- ・支払日から1年以内に役務の提供を受けること
- ・毎期継続して適用すること
たとえば、建物の賃貸契約に基づき、月末に翌月分の家賃を支払っているようなケースでは、短期前払費用として処理することが可能です。
一方で、収益の計上と対応させる必要があるものは、たとえ1年以内の短期前払費用であっても、支払時点での損金算入が認められないため注意が必要です。
繰延資産とは?会計上・税務上の違い
繰延資産とは、すでに対価の支払いが完了しサービスの提供も受けているものの、その支出の効果が1年以上にわたる費用をいいます。
会計上と税務上では、繰延資産に該当する範囲や償却の方法が異なるため、それぞれの基準に沿った対応が求められます。
会計上の繰延資産の種類と処理のしかた
会計上の繰延資産には、創立費・開業費・株式交付費・開発費・社債発行費の5つが限定列挙されています。
これらの資産は、その効果が及ぶ期間に応じて均等償却しますが、実務上は、支出時に全額を費用として処理する「任意償却」も認められています。
なお、均等償却を行うにあたっては、費用ごとに定められた償却期間(創立費や開業費は5年以内など)が異なるため、期間の整合性を踏まえた処理が必要です。
税務上の繰延資産に該当する費用と償却方法
税務上の繰延資産は、会計上の5項目に加えて、支出の効果が1年以上に及ぶと認められる費用のうち、法人税法で定められた一定の支出も含まれます。
会計上の繰延資産以外で該当するものとしては、広告宣伝用資産の贈与、加盟一時金、公共施設負担金、職業スポーツ選手の契約金などが挙げられます。
これらは、支出額および効果の及ぶ期間に応じて、法定償却期間に基づく均等償却が義務付けられています。
また、償却開始時期は「支出日」とされており、会計上の扱いとは異なる点にも注意が必要です。
税務調査で指摘されやすいポイント
税務調査において、繰延資産は重点的に確認される項目の一つです。
会計上は費用処理していたとしても、税法上の繰延資産に該当する支出であれば、損金算入が認められないケースがあります。
たとえば、公共施設負担金など、効果が1年以上に及ぶ費用を繰延資産として処理していない場合、税務当局からの指摘を受ける可能性があるので注意が必要です。