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中小企業のM&Aを後押しする「中小企業事業再編投資損失準備金」の活用法

中小企業の成長戦略としてM&Aは有効な選択肢の一つですが、投資負担や潜在的なリスクが大きな経営課題となります。

こうしたM&Aに伴うリスクに備え、企業の積極的な挑戦を後押しするために創設された税制が「中小企業事業再編投資損失準備金」制度です。

本記事では、中小企業のM&Aを支援する税制である中小企業事業再編投資損失準備金制度について、制度の適用要件および実務上の活用ポイントを解説します。

【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰

中小企業事業再編投資損失準備金制度の概要

中小企業事業再編投資損失準備金制度とは、中小企業者がM&A(株式取得)を行った場合に、その取得価額の一部を準備金として積み立て、損金に算入できる制度です。

一定の要件を満たした中小企業者等が、株式取得によってM&Aを実施する場合には、取得価額10億円以下に限り、株式等の取得価額(取得価額および手数料)の70%を準備金として積み立てることが可能です。

この準備金は、積み立てた事業年度において課税所得から損金算入することができ、5年間の据置期間を経た後、均等額で取り崩して益金に算入することになります。

また、過去5年間にM&Aを実施した中堅・中小企業が、産業競争力強化法に基づき新設された特別事業再編計画の認定を受けたうえで、株式取得によるM&Aを実施する場合には、認定後1回目のM&Aにおいて株式取得価額の90%、2回目以降は100%の金額を準備金として積み立てることができます。

この場合における益金算入の開始は、10年間の据置期間を経過した後となります。

中小企業事業再編投資損失準備金制度の主な要件

中小企業事業再編投資損失準備金制度の適用には、対象となる企業の属性、行為の内容、そして計画認定の有無など、複数の要件を満たす必要があります。

経営力向上計画の認定

中小企業事業再編投資損失準備金制度は、事業承継等事前調査(実施する予定のデューデリジェンスの内容)に関する事項が記載された経営力向上計画の認定を受けた中小企業者が対象となります。

デューデリジェンス(DD)とは、M&Aを実施するにあたって、買手企業が売手企業に対して、財務や法務の状況について詳細に調査することをいいます。

経営力向上計画では、M&Aによって自社の生産性向上などが図られることを明記しなければなりません

認定を受けた計画に基づいて株式取得を実行することで、制度の適用が可能となります。

対象となる中小企業

中小企業事業再編投資損失準備金制度を活用するには、「経営力向上計画」の認定を受けることが前提となります。

この計画は、中小企業等経営強化法における「特定事業者等」に該当する事業者のみが提出可能です。

さらに、制度の適用を受けるには、租税特別措置法上の「中小企業者」にも該当している必要があります。

<特定事業者等(中小企業等経営強化法)の要件>

  • 常時使用する従業員数が2,000人以下の法人または個人事業主
  • 事業協同組合、商工組合などの協同組合等

<中小企業者(租税特別措置法)の要件>

  • 資本金または出資金の額が1億円以下の法人
  • 資本または出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
    ※大企業の子会社等に該当する場合は対象外。

対象となる行為類型

本制度の対象となる行為は、事業の承継を伴うM&Aを行い、他の特定事業者等の株式等を取得するケースです。

形式的な株式取得であっても、実質的な事業承継と認められない場合は制度の対象外となります。

対象外となる具体的なケースとしては、同一の者に支配された法人間(グループ内)での事業移転や、親族間での株式移転による形式的な承継があります。

そのため、制度の適用にあたっては、取得の目的や承継の実態を踏まえたうえで、事業承継性の有無を慎重に判断する必要があります。

積立額と取り崩しルール

中小企業事業再編投資損失準備金制度を適用するにあたっては、積立額の算定方法と取り崩しのタイミングを正しく理解することが重要です。

積立額と損金算入

損金算入できる準備金の額は、株式等の取得価額の70%が上限です。

将来の損失見込額を算定する必要はなく、取得価額を基準に算定します。

税務申告時には、経営力向上計画の申請書、認定書および、M&Aの報告確認書の写しを添付する必要があります。

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