在庫評価は、企業が保有する在庫(棚卸資産)を、決算や損益計算時に金額として算出する会計上の手続きです。
評価方法の選択や運用によって売上原価や利益が変動し、結果として税額にも影響を及ぼすため、各評価方法の特徴を正しく把握することが求められます。
本記事では、在庫評価の基本的な考え方と、税務調査で指摘されやすい実務上の注意点について解説します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
在庫評価の基本的な考え方
在庫評価は、企業の利益計算と財務状態の正確な把握に直結する重要な会計処理です。
会計と税務では、評価の目的や認識基準が異なるため、それぞれの制度の理解が不可欠です。
会計上の在庫評価の意義と目的
会計上の在庫評価は、収益との対応関係を保ち、適正な期間損益を計上するために行われます。
期末在庫の評価額は、売上原価の算定に影響し、利益の過不足を防ぐ役割を果たします。
また、財務諸表の信頼性や比較可能性を確保するために、継続的かつ合理的な評価方法の採用が求められます。
税務上の評価原則と損金算入との関係
税務上の在庫評価は、法人税法に基づき、原則として取得原価により評価されます。
売上原価として費用化されるのは販売時点であるため、期末在庫は資産として計上され、損金算入されません。
評価損を計上できるのは、著しい陳腐化、災害による損失など、法人税法施行令第68条第1項1号に定める「評価換えが必要な事実」が発生した場合に限られます。
税務上の評価方法の選択と変更の制限
在庫評価方法は、原則として継続適用が求められます。
税務上は、一度選択した方法を変更するには税務署への届出が必要です。
変更には合理的理由が必要であり、利益操作を目的とした変更は認められません。
そのため、評価方法の選択は、業種・商品特性・管理体制を踏まえた慎重な判断が必要です。
主な在庫評価方法と特徴
在庫評価には複数の方法があり、それぞれに特徴と制約があります。
原価法の概要
原価法は、在庫の取得原価を基準に評価する方法で、個別法・先入先出法・総平均法などの選択肢があります。
税務上では、評価方法の届出を行っていない場合、法定評価方法として「最終仕入原価法」が適用されます。
<原価法の種類と概要>
- 個別法:品目ごとに取得原価を個別に管理する方法。高額品や識別可能な在庫に適している。
- 先入先出法:先に取得した在庫から順に販売されると仮定する方法。物価上昇時には利益が大きくなる傾向がある。
- 総平均法:期中の取得原価の平均値で在庫を評価する方法。価格変動の影響を平準化できる。
- 移動平均法:在庫の取得の都度平均原価を再計算する方法。継続的な在庫管理が可能な場合に適している。
- 最終仕入原価法:期末時点の最新仕入原価を基準に評価する方法。税務上、届出がない場合の法定評価方法として適用される。
- 売価還元法:グループ分けした棚卸資産の期末売価合計額に、あらかじめ設定した原価率を乗じて期末在庫の評価額を算出する方法。小売業など、大量かつ多品種の在庫を扱う業態に適している。
低価法の概要
低価法とは、棚卸資産の評価方法の一つであり、企業が保有する在庫の取得原価と期末時点の時価を比較し、いずれか低い方の価額を評価額とする方法です。
時価が原価を下回った場合には、その差額を棚卸資産評価損として当期の費用に計上します。
低価法を適用することで、在庫の陳腐化などによる資産価値の過大評価を防ぎ、企業の財務状態をより適正かつ保守的に表示することが可能となります。
なお、会計上の適用と税務上の損金算入要件は異なるため、それぞれの制度に応じた対応が必要です。
評価方法の違いによる税務上のメリット・デメリット
評価方法によって、期末在庫の金額や売上原価が変動し、結果として課税所得にも影響します。
たとえば、先入先出法は物価上昇時に期末在庫が高くなり、利益が増加する傾向があるため、税負担が重くなる可能性があります。
一方、総平均法は価格変動の影響を平準化できるため、安定した利益計上が可能です。
なお、税務上は継続適用が原則であり、評価方法の選択・変更の際には届出が必要です。
税務調査で指摘されやすい在庫評価のポイント
在庫評価は、税務調査において重点的に確認される項目です。
評価方法や棚卸手続きに不備があると、損金否認や追徴課税のリスクが高まります。





