企業が非居住者や外国法人に対して支払いを行う場合、取引内容に応じて源泉徴収税が課されることがあります。
税率や納付期限は取引先国や契約形態によって異なり、納付漏れは加算税や延滞税などのペナルティにつながるため注意が必要です。
本記事では、法人が留意すべき対象取引、税率、納付手続きの実務ポイントを解説します。
目次
海外取引における源泉徴収税とは
源泉徴収税とは、所得税法および法人税法に基づき、支払者が税額を差し引いて日本の税務署に納付する制度です。
これは、日本国内で発生した所得に対して、非居住者や外国法人にも課税を行うための仕組みです。
国内源泉所得の支払いが国外で行われる場合、原則として源泉徴収の必要はありません。
ただし、支払者が日本国内に住所・居所または事務所等を有する場合には、その支払いは国内で行われたものとみなされ、源泉徴収の対象となります。
一方で、取引の内容や相手国との租税条約が適用されるケースでは、税率が軽減または免除される場合があるため、租税条約の有無や内容の確認が必要です。
租税条約による課税の特例と適用手続き
租税条約とは、二国間で課税権の範囲や税率などを調整するために締結される国際的な取り決めであり、二重課税の排除や脱税の防止を目的としています。
令和7年(2025年)11月1日現在、日本は157か国・地域と租税条約を締結しており、その内容は相手国によって異なります。
非居住者等の居住地国と日本との間に租税条約が締結されている場合、非居住者が受け取る国内源泉所得に対する課税は、条約の定めに基づき軽減または免除されることがあります。
この特例を適用するには、所定の事項を記載した届出書(必要に応じて添付書類を含む)を、所得の支払者である源泉徴収義務者を経由して税務署に提出しなければなりません。
届出書の様式や提出書類は取引等によって異なることから、事前確認が不可欠です。
海外取引に対する源泉徴収時期
所得税および復興特別所得税の源泉徴収は、原則として、対象となる所得を現実に支払う時点で行います。
支払うことが確定していても、実際に金銭の交付などが行われていなければ、源泉徴収を行う必要はありません。
「支払」には、現実に金銭を交付する行為だけでなく、元本への繰り入れや預金口座への振替など、支払い債務が消滅する一切の行為が含まれます。
ただし、以下のような例外的なケースでは、一定の期日をもって支払いがあったものとみなされ、源泉徴収を行う必要があります。
<源泉徴収時期の例外>
- 配当等(投資信託または特定受益証券発行信託の収益分配を除く)で、支払確定日から1年を経過した日までに支払いがない場合
→確定日から1年を経過した日 - 法人の役員に対する賞与で、支払確定日から1年を経過した日までに支払いがない場合
→確定日から1年を経過した日 - 組合契約事業から生じる利益で、計算期間末日の翌日から2か月を経過する日までに金銭等の交付がない場合
→2か月を経過する日 - 割引債の償還差益
→割引債の発行時 - 一定の割引債を除く割引債の償還金に係る差益金額
→償還金の支払時
源泉徴収税の納付手続き
源泉徴収税の納付期限は、原則として支払日の属する月の翌月10日までです。
納付には「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書(納付書)」を添えて、所轄税務署の窓口、最寄りの金融機関、またはe-Taxを通じて納付します。
割引債の償還差益、特定口座内保管上場株式等の譲渡所得、源泉徴収選択口座内配当等については、それぞれ専用の納付書様式が定められています。
国外で支払いが行われた場合でも、支払者が国内に住所・居所・事務所等を有する場合には国内で支払われたものとみなされますが、この場合の納付期限は、翌月10日ではなく翌月末日となります。
源泉徴収税の未納に対するペナルティ
源泉徴収税には期限内の納付義務があるため、期限までに納税を済ませない場合には、不納付加算税と延滞税の対象となります。
不納付加算税は、源泉徴収等による国税が法定納期限までに完納されなかった場合に課される税金です。
適用税率は原則10%ですが、自主的に納付が行われた場合には5%に軽減されます。
また、法定納期限から1か月以内に行われた一定の期限後納付や、正当な理由がある場合には不適用となります。
一方で、二重帳簿の作成や帳簿書類の破棄・隠匿などの仮装隠蔽行為がある場合、該当部分については重加算税の対象となります。
重加算税の税率は35%と高額であるため、特に注意が必要です。
まとめ:海外取引における税務管理の重要性
海外取引に伴う源泉徴収税は、制度の基本的な理解だけでなく、相手国との租税条約の有無や内容を把握することが求められます。
国際税務は、専門的な知識を必要とする領域であるため、取引前の事前確認と税理士など専門家との連携が欠かせません。
安定的かつ継続的な税務管理を実現するためには、制度改正や国際税務の変化に柔軟に対応できる体制を整えることが重要です。





