譲渡所得の課税年分は、譲渡資産を引き渡した日です。
しかし年末年始に契約・売却をした場合、契約日と引渡日を使い分けることで申告年分を変えることも可能です。
また年分変更以外でも、契約日と引渡日を使い分けるメリットはありますので、ご説明します。
【この記事の監修者】
讃良周泰税理士事務所 税理士 讃良 周泰
目次
譲渡所得の譲渡日の判定方法
譲渡した日は原則引渡日を使用する
譲渡所得の譲渡日は、原則として不動産の引き渡しがあった日をいいます。
たとえば令和2年(2020年)12月に不動産の売買契約をし、令和3年1月(2021年)に売買代金を受領した場合(通常、不動産売買は代金の受領とともに引き渡しを行います。)、譲渡所得の課税年分は令和3年です。
また、譲渡資産の残金を受け取った日より後に引き渡しをした場合、残金の受取日が引渡日となります。(引き渡し日は代金の決済日より後にはなりません。)
確定申告で選択すれば契約日を譲渡日とみなすことも可能
譲渡日は原則として譲渡資産を引き渡した日ですが、契約日を譲渡日として申告することも可能です。
また契約日ベースで申告する際、添付しなければいけない書類はありませんが、売買契約書の写しなど契約日の確認できる書類を提出すると、税務署からの問い合わせが少なくなります。
取得日についても引渡日と契約日を選択できる
契約日と引渡日の選択は、取得費として計上する資産の購入した年月日にも適用できます。
また譲渡日と取得日に使用する日にちは、契約日と引渡日のどちらかで統一する必要はありません。
したがって譲渡日は引渡日を適用し、取得日は契約日を適用して譲渡所得の計算をすることも可能です。
譲渡所得の譲渡日・取得日を契約日ベースで申告するメリット
譲渡所得の譲渡日・取得日を、契約日ベースで計算するメリットは3つあります。
● 長期譲渡所得の適用
● 減価償却費の短縮
● 損益通算
所有期間を延ばすことで長期譲渡所得の課税対象にできる
金地金などの譲渡と違い、不動産譲渡の所有期間の計算は特殊で、譲渡をした年の1月1日時点で所有期間が5年を超えた場合に、長期譲渡所得の対象となります。
そのため売却時点で実際の所有期間が5年を超えていても、計算上は短期譲渡所得(5年以内)に該当することもあります。
しかし譲渡資産を購入したのが年末年始だった場合、取得日を契約日ベースで計算することで、所有期間を1年延ばすことも可能です。
短期譲渡所得の税率は住民税も含めると39.63%ですが、長期譲渡所得の税率は20.315%と短期譲渡所得の約半分です。
所有期間が5年ギリギリの際は、契約日を上手く活用することで、課税対象を短期から長期に変えることも可能となります。
減価償却期間は半年未満なら切り捨て可能
建物を譲渡する場合、取得費から減価償却費相当額を差し引きます。
事業用資産を売却する場合、減価償却費は1か月単位で計算する一方、非事業用資産は経過年数の6か月以上は1年、6か月未満は切り捨てて減価償却費の計算をします。
たとえば建物の所有期間が5年7か月なら、減価償却費は6年分になりますが、5年5か月なら減価償却費は5年分です。
譲渡日を契約日ベースにすれば所有期間は短くなり、経過年数が6か月未満になれば、1年分の減価償却費相当額を計算から除外できます。
仮に差し引く減価償却費が10万円少なくなれば、長期譲渡所得の対象で約2万円、短期譲渡所得で約4万円の納税額を減らせるため、減価償却資産を売却する際は契約日ベースでの計算も検討してください。
同年中の譲渡で損益通算可能
複数の不動産の譲渡に係る損益通算は可能ですので、黒字の譲渡と赤字の譲渡と相殺できます。(不動産の譲渡所得は、一部の特例を除き、他の所得と損益通算はできません。)
しかし損益通算は同年中しか認められないため、損失と利益が発生している不動産を処分する際は、同年中に売却した方が譲渡所得の金額を圧縮できます。
また連年で売却した場合でも、2年目に売却した資産の契約日が前年であれば、契約日ベースでの申告をすることで、譲渡所得の損益通算を利用できるようになります。
譲渡所得の契約日ベースを選択する際の注意点
譲渡日・取得日を契約日ベースに適用することで、節税できるケースもあります。
ただ契約日を使用するデメリットや、適用する際の注意点もあるため、ご確認ください。
契約日の選択は必ず期限内申告
譲渡日は、譲渡資産を引き渡した日が原則であり、契約日は例外として選択できる仕組みです。
また契約日の選択は、期限内申告が条件なので、期限後申告をする際に契約日ベースで計算はできません。
そのため契約日を選択して損益通算する場合は、損益通算後の譲渡所得が赤字になる場合でも、期限内に申告してください。
期限後に譲渡日の変更はできない
確定申告期限を過ぎた後、譲渡日を契約日から引渡日に変更することはできません。
更正の請求が認められるのは、申告内容に誤りがある場合に限られます。
譲渡日は、引渡日と契約日のどちらを選択しても誤りではないため、譲渡日の変更は更正の請求要件に当たらないとされています。
したがって